「令和になった今だからこそ、観るべき作品かと思います。」この世界の(さらにいくつもの)片隅に マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
令和になった今だからこそ、観るべき作品かと思います。
16年に公開された「この世界の片隅に」にとても感動し、新たなシーンを追加した長尺版との事で鑑賞を楽しみにしていました。
で、感想はと言うと…良かった。とても良かった。
観れて良かった。この作品に新しい形で改めて出逢えて本当に良かったです。
ほんわかした絵柄やテンポの良い会話に優しい気持ちになりながらも避けては通れない現実に胸がキリキリする。メリハリの効いた演出がとても良い。
すずを始めとした登場人物達が切なくも愛おしい。
コトリンゴさんの優しい歌が心に染み渡る。劇中の「悲しくてやりきれない」や「隣組」にじんと来ます♪
特に悲しくてやりきれないはいろんなアレンジがありますが、この曲を聴くと切なくなります。
この曲はこの作品のイメージをぴったりと表してますね。名曲です♪
この作品を観ると何かこびりついた物が洗い流れる様な感じで素直に優しい気持ちになります。
前作を鑑賞した時の感想は勿論文句無しで、あれが完成形に思っていましたが、新たなシーンが追加された事で違う作品と言っても過言ではないくらいに新たな魅力を引っ提げている。
また、長くなったからと言ってダレる事もなく、それぞれのキャラの描写が細かく描かれている。
特にすずの女性としての葛藤や思いがより明確になってます。
ただ…やっぱり168分と言う上映時間は長いかなぁ。
監督のやりたい事を表現するのに必要だったと言うのは分かりますし、内容的にダレていた訳ではないんですが、お話のテンポは些か落ちる感じもし、また鑑賞前に168分の上映時間と言うのは割りと萎える尺ではありますw
すずが描く世界はほのぼのとし、何処か優しい。
オープニングのばけもののおっさんはすずの想像力豊かな思いの表れ。
籠から“おっさん おっさん”と頭を叩く言い方がツボですw 大好き♪
そのばけもののおっさんとワニの嫁さんがラストに登場した時は嗚咽が漏れそうになるぐらい胸が熱くなり、涙が出そうになりました。
厳しい現実と生々しい描写の中にこういった優しいファンタジーな演出が嬉しいんですよね♪
周囲に流される様や感じでありながら、いろんな事を受け入れ、慈しむすずの優しさに気持ちが温かくなり、またすずと作品の優しさに触れられる事が嬉しい。
序盤のすずの創意工夫した料理のシーンはほっこりした気持ちになって好きなシーンです。
今作では遊廓の描写がかなり追加されていて、遊女のリンとの友情を描いていて、そこに同じく遊女で結核を患うテルとの交流を描いていますが、このテルとの交流が本筋に絡まなくても、すずの心理描写をより深く豊かに表しています。
主人公のすずの声を演じるのんさんはすずの魅力を完璧に引き出していると言っても過言ではないくらいにぴったり。
ほんわかした口調からすずの思い詰めた際の演技の緩急がとても上手く、戦争の情勢が逼迫していく中ですずのやり切れなさも見事に演じています。
前作でもショッキングだった晴美の死と右腕の欠損の事故。
家族が原爆の被害に遭い、妹のすみも原爆症に犯される。そこにリンとテルの死も追加される。
様々な死を目の辺りにするとアニメーションの演出描写と分かっていてもやり切れない切なさに胸がキリキリする。
でも、戦争が終わって、すずはその怒りを露呈するけど、解放感が漂う。
アメリカ進駐軍の払い下げの残飯の雑炊を口にした時の“美味~い!”は綻んでしまいました。
前作と今作を確りと見比べている訳ではないので、何処がどう違うかと言うのは細かくは分からないけど、それでも前作の良さをきちんと継承しつつ、新たな魅力を追加した作品に仕上がってます。
また、前作でもあったとは思いますが、ラストの戦災孤児の女の子を引き取る前の母親との描写がやっぱりショッキング。
戦争の生々しさをまっ正面から描いていますが、こう言った緩急の描写が上手いんですよね。
これがこの作品の奥深さであり、緩急の上手さかと思います。
戦中戦後の事は歴史の授業で習った以外に自分の親や祖父祖母から当時の話を子供の頃に聞いていたり、また生まれた時代が70年代だったので、微かに住んでいた所からぎりぎり戦後感の匂いを感じとれたり出来たので、なんとなく体験した様なイメージが思い浮かびました。
ただ、冷静に考えるとそれはやっぱり思い込みで阪神大震災で焼け野原になった神戸の街を見た事や、東日本大震災での福島の街の映像からの印象で、見てもいない物が見た気になってる訳なんですが、それでも劇中の焼け野原になった呉の街にはショックを受け、震災の時のやるせなさを思い出しました。
人の生死が何処か遠くの事に感じる時がありつつも、いろんな接した人達が亡くなる事が多くなると今を生きる事がとても大事で、接している人達がとても愛おしく、その関係が尊い物に思います。
それを考えると切なくて苦しくて悲しくなる。
でも、そればっかり考えてるとやっぱり辛いので何処か忘れた様になりますが、この作品は大事な何かを改めて教えてくれます。
「この世界の片隅に」がとても良かった作品だったので、改めて製作されたこの「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」を鑑賞出来た事がとても嬉しい♪
平成と言う時代から令和になり、昭和と言う時代が遠い昔になりつつあるからこそ、観るべき作品かと思います。
カッコつけた言い方かも知れませんが、そういう気持ちにさせてくれる素晴らしい作品です。
ちょっと長くはありますがw、前作を鑑賞していても観る価値のある絶対お薦めの作品です♪