劇場公開日 2019年7月26日

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「戦争を巡る政治的な駆け引きの面白さ」アルキメデスの大戦 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0戦争を巡る政治的な駆け引きの面白さ

2024年5月5日
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鑑賞方法:DVD/BD

冒頭、戦艦大和が沈むシーンで「スゴい!」と映像の出来に唸ると同時に、悔しいような悲しいような、苦々しい感情が渦巻くのを感じた。
戦争の最中、散っていく兵士たちが悲壮で哀れだから?そういう要素もあるかもしれないが、「タイタニック」で沈没シーンを観たときには感じなかった感情だ。あの時はただドキドキと不安と恐怖と無力感だけがあった。
だが大和は違う。
無力感も、「諸行無常」のような寂寥ではなく、何故自分にはこの艦を救う力がないのか、悔しさのような歯痒さのような、積もり積もって怒りにまで達しそうな、そういう無力感だ。

衝撃の沈没シーンから一転、月日は遡って次期主力艦建造会議がこの映画のメインストーリーとなる。
大艦巨砲主義と航空戦略主義の対立からなる、戦艦か空母か?の会議バトルだ。勝敗を決めるポイントは「予算」。数字で完全に決着するハズなのなに、排水量も兵装も多い戦艦の方が見積りが安い、という状況に空母案を推す山本五十六たちは不穏な気配を察知。
たまたま遭遇した櫂に目をつけ、戦艦見積りのからくり調査を依頼して、櫂の奔走が始まる。

櫂と、補佐につけられた田中のやり取りがとにかく面白い。
演じる菅田将暉と柄本祐のコンビネーションも申し分なく、徐々に櫂の仕事ぶりに感じ入り、できる範囲でサポートに打ち込む田中は、この映画の一番身近なキャラクターだ。

軍が気に入らず、能力が高いゆえに不遜な櫂に対し、堅物で筋金入りの軍人である田中。突如上官となった年下の櫂に振り回される田中。軍でのお作法をさりげなく教えてくれる田中。
櫂が主役なのに、田中の事しか書いてないな。
まだ人気があまりなかった頃から柄本兄弟が好きだった私としては、こんな魅力的なキャラを演じている事がすでに幸せだから、許してほしい。

櫂と田中の奔走が、虚しく終わることは冒頭でも示されるし、歴史を見れば明らかだ。なのに、それを暫く忘れさせるほど、二人の必死さに飲み込まれていく感覚は快感ですらある。
さらにこの物語の肝になるのは、帝国海軍の威信を背負わされた「戦艦大和」への秘められた想いだ。
かなり台詞で説明されるものの、映画冒頭で感じた「無力感」を思い返せば、無理筋ではない。
歴史上の出来事を覆してしまえば一気にファンタジーに突入してしまうこの物語を、太平洋戦争前夜の日本に踏みとどまらせる重要なシーンで、今まで積み上げてきた「櫂直」というキャラクターにリアリティを持たせ切った菅田将暉は、本当に素晴らしい役者だと思う。

見積りの謎解きミステリー、会議を巡る思惑のサスペンス、戦艦に関わる人間たちのドラマ、櫂と田中のバディムービー、とかなり欲張りな映画だが、すべてが高次元でまとまっていて最後まで楽しめる。
血まみれのシーンもほとんど無いので、バイオレンスが苦手な人にもお薦めできる、貴重な「戦争もの」だ。

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つとみ