「あなたに捧げる“幸福の硬貨”」マチネの終わりに 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あなたに捧げる“幸福の硬貨”
世界的なギタリストの蒔野。
パリの通信社に勤めるジャーナリストの洋子。
デビュー20周年の公演後、友人を介して出会う。
蒔野はスランプに陥り、全てが嫌になってギターから遠退く。
洋子には婚約者がおり、パリでテロ事件にも遭遇する。
出会った瞬間に惹かれ、関係が縮まりながらも、各々の境遇、再会と別れを繰り返し…。
共に40代。まだ老いてもなく、かと言って若くもなく、人生に再び訪れた恋に不器用で、翻弄され…。
ドストレートな大人のラブストーリー…いや、メロドラマ。
東京、パリ、NYを舞台にし、ムードはいいが、ツッコミ所やご都合主義も多々。
それでも情感たっぷりの大人のメロドラマとして成り立っているのは、主演二人の魅力に尽きる。
本作の後『ラストレター』に出演したが、福山雅治が映画で主演で恋愛モノに出たのは意外にも本作が初めて。
哀愁漂わせつつ、男の色気も滲ませる。
最近やたらとアンチ派も多いようだが、劇中披露するうっとりするギターの音色も併せ、何だかんだ言って画になる佇まい。
福山も悪くなかったが、やはり私は男なので、石田ゆり子に見とれてしまう。
アップになると多少目じわも目立つが(劇中でも蒔野より洋子の方が年上設定)、全体の雰囲気は何の何の!
美しく、知性や自立心のある傍ら、テロの後遺症に悩まされ、脆さや弱々しさ、蒔野からの突然の告白に戸惑う。
その魅力。それも全て、40過ぎてもこういうラブストーリーに主演出来る石田ゆり子だからこそ。
他豪華なキャストが揃っているが、それほど見事なアンサンブルを奏でているとは言い難い。
この手の作品に必須な恋敵、てっきり伊勢谷友介演じる洋子の婚約者かと思っていたら、思わぬ人物であった…!
蒔野のマネージャー、早苗。
まだ若いながらも、ギターを弾く事以外不器用な蒔野を全面的にアシスト。
蒔野の突然の半引退は蒔野の苦悩を汲んで理解を示すも、蒔野の洋子への想いに対しては…。
密かに蒔野に想いを寄せていた早苗。
洋子が帰国し、蒔野と3度目の再会の日、それを妨害。二人の想いはすれ違い、会う事も無く別れに…。
そして早苗は蒔野と結婚し、子も授かる。
まんまと幸せを手に入れたビ○チ!…と思えないのは、彼女自身も激しく後悔していたから。
何よりも蒔野の事を第一に考え、蒔野の再起の為に…。
ある時、遂に二人に事情を。洋子と早苗の対話シーンはヒリヒリ…!
少々ファンタジー世界の主演二人より、ずっと現実味あって何だか不思議と共感も。
演じた桜井ユキが印象的。“名脇役”であった。
よくあるジャニタレやアイドル美少女を起用した胸キュンシチュエーションの少女漫画の実写化だったら、こうはなるまい。
大人の恋愛は想いだけで全てが夢のように上手くいかない。
再会すらままならない。
しかしだからと言って、想いが薄れ、忘れる事など無い。
会えないほど、想いは募り…。
パリでの2度目の再会の時の蒔野の突然でありつつ、激しく熱い告白。
あなたの存在がこの身を貫通…いや、あなたの存在がこの身に留まり続けている。
この言葉が物語っていると思える。
浮気もしくは不倫とも見て取れる。
でも運命の女神が微笑み、二人が結ばれていたとしたら、どうだろう。
二人の人生に於いて、美しい愛の物語のまま終われただろうか。
聞こえは悪いかもしれないが、早苗と結婚し、穏やかで幸せな家庭を築き、再起も出来、蒔野にとって結果的に良かったのではと思う。
洋子は婚約者と結婚するも不倫され、子も奪われ、私生活は不幸せだが、再びジャーナリストとして再出発。思うに洋子は、“妻”や“母親”というより“女性”として生き、愛される方が合っているように思える。
それぞれ生き迷いながらも見出だした、愛の形と幸せと人生…。
本来ならここで難点を指摘して締めにしようと思ったのだが、レビューのバランスが悪くなりそうなので、割愛。
ツッコミ所やご都合主義は、見てアリかナシか判断して下さい。
“再会”のラストシーンまでは描かず、個人的にその直前の演奏会で終わっても良かった気がする。
それほど素晴らしいシーンであった。
蒔野はデビュー時と同じホールで再起コンサートを。
拍手喝采。
最後の一曲は、突然の変更。
何故ならその視線の先には…
あなたに捧げる“幸福の硬貨”。