「感じることは人によって相当異なる映画」海獣の子供 ほしさんの映画レビュー(感想・評価)
感じることは人によって相当異なる映画
伝わる人にはいろんなメッセージが伝わるし、伝わらない人には映像美にしか目がいかなかったり、意味がわからなかったりだと思いました。終盤に、20分くらいめちゃくちゃ抽象化されたイメージがただ映し出される、台詞もあんまり無いシーンがあります。私はそこにメッセージが凝縮されているように感じたんですけど、いくら考えても理解が及ばない。それくらい、原作者さんの概念がそのまま絵になってる感じでした。まだそこまで多くの映画を見たわけではありませんが、この映画が一番難しかった。人情劇を観たいのなら他を観た方がいいんじゃないかと、思います。
この映画を難しくしているものの1つに、散りばめられているであろうヒントたちが難しすぎるってことが挙げられるんじゃないでしょうか。
ここからは私の意見なんですが、主人公の名前が琉花、ルカじゃないですか。LUCAって生物の一番の祖先の、共通祖先ってやつの名前なんです。上にも書いたラストの琉花がクジラに飲まれてからのシーンで、琉花の体内の隕石がソングに共鳴していたと思うんですが、その時琉花は子宮のあたりを抑えていたように見えたんです。そして、琉花がどんどん広がっていって、宇宙を飲み込む。新たな宇宙となる海を、一度産みなおしたって表現だと思ったのですが、赤ちゃんにし、隕石を飲ませ、海と空は宇宙となり、琉花によって産み出された宇宙は数々の銀河となり、すべての生物の命の種となる…みたいな。琉花がこの宇宙の一番最初の生命となったとも受け取れました。主人公の名前1つとっても、様々な考えが生み出せると思います。
ただ、この映画で一番大事なことは、それぞれが感じた何かしらのメッセージだと思います。解明できない、言語化できないこの世界の大半を、言語の中に無理やり押し込むのではなくそのままに感じ取ることの大切さを映画の中で語っていました。大切なことは言葉にならないんです。原作なら絵で、映画なら映像で、言語化できない作者からの膨大なメッセージが色になって押し寄せてきます。それを無理に言語化せずに、なにか人生の糧にできるのなら、それがこの映画の一番のメッセージが伝わっているということになるのではないでしょうか。
どんな人にも説明できないような、言語を超えたメッセージのこもった、とても面白い作品でした。