「なんでこ~なっちゃうの」海獣の子供 おすしさんの映画レビュー(感想・評価)
なんでこ~なっちゃうの
傑作と言われている原作を技術のあるプロダクションが映像するということで、ものすごく期待をしていました。
どうして~
どうしてこうなってしまったの~
映像のクオリティはとんでもない。そこに文句をつける人はきっと誰もいないでしょう。風景の雰囲気ある色味、鮮やかなタチアオイの赤、とれたての魚のようにきらめく瞳、それらの美しさや繊細・緻密な線が寄り集まって大胆な絵柄になり画面いっぱいにこちらを飲み込むように動いていくことの美しさはこの映画唯一のものです。音響も迫力があり、見るのであればぜひ映画館の大きなスクリーンで見ることをおすすめしたいです。
ただ、その映像自体のすごさを支えるほどにはこの作品の世界観に入り込む要素がないんです。
映像がすごければすごい分、その重みを受け止められるほどの背骨がないというか。作品の世界に気持ちが入り切れず、ただただすごい映像素材集を他人事のまま見せられているようで。
頭で考えるより大きなテーマを感じるタイプの映画なのだとは思います。
海がすべてのはじまり、すべてがおなじ生であること、はじまりから生まれた子供、その死とあらたな誕生、祭。
でも、すべての表現が直接的・記号的すぎるから、感じる前に邪魔してくるんですよ。もっと曖昧でいいのに。
くじらに呑まれてからのルカと海のくだりとか「見てください!わかりますか!?これ!なんと受精を表現してるんですよお~~!」って言われてるみたい。もっと…あるだろ?!?!アニメーションなんだから!どれだけでも自由に描けるのに!なんならそのあと細胞が分裂するアニメーションで卒倒しましたよねそのまますぎて!もっと別の表現なかったすか?!?!生命の誕生とか!そういうやつをあらわすのに!!!???
なんかとにかく原作から削れなかった名残みたいな意味深さをにおわせてくるのほんと邪魔でした。ジムが会っていた軍人っぽい人が海と空を利用するしないのくだりは何だったんでしょう?
あと、開幕で坂道を駆け下りてくるルカがめちゃくちゃ変な異常にグニャグニャした走り方をしてて、「これラストは絶対まっすぐ走ってくるな」と思ったんですが案の定その通りだったのも萎えました。
声優ではなく役者を起用したということは、いわゆる「アニメ的」なものより、より自然なものを作ろうとしたんじゃないかなと思うんですが、それならこういういかにもな「アニメのお約束」みたいなのをなんで過剰に入れちゃうのっていう。
役者さんを使った演技は聞き心地が良いというか、自然ですごくよかった。スタッフロールでキャストをみて驚きましたが、お父さんは稲垣吾郎さんなんですね。素晴らしかったです。
ただ、ごはんをたべるときにルカが「はむっ!」みたいな発音していて、えっなんでここ急にアニメっぽくなるの……って引きました。ちょいちょいこういうのがあるんだよ…。
あと尼神インターはもっとなんとかならなかったですか。地味に出番多いし。
見終わった後「なんかすごかったけどよくわかんなかったね」と言ってる人が周りに結構いたんですが、「よくわかんなかったけどすごかったね」じゃないところが、もうそういうことなんだよなって感じです。
他の映画にない素晴らしい部分はたくさんあります。
でも、一言で感想を言うなら名作の原作にクソダサいことしてくれやがったなという気持ち。
もっと「意味はわからんがとにかくすげ~生命感じたわ」って圧倒してほしかった。