「宇宙もあなたもすべては粒でできている⁈」海獣の子供 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
宇宙もあなたもすべては粒でできている⁈
原作未読、予備知識なしだったのでびっくりしました。
『われわれはどこからきて、どこへ向かうのか』
人類の起源やこれからどう進化するのかという予測をテーマにしたダン・ブラウンの小説「オリジン」のテーマとピタリ重なるのです(「ダヴィンチコード」や「天使と悪魔」で有名な作家です)。
この小説では、純粋に科学的な人類の起源解明と〝神〟による創造が前提のユダヤ教、キリスト教、イスラム教とのさまざまな軋轢や摩擦もまた大きなテーマになるのですが、この映画を見る限り、日本では、宇宙の創造も人類の創造も、どちらについても宗教的配慮は殆ど気にしなくていいことを改めて理解でき、テロのような陰惨なものとは違った文化的視点から日本と世界の思想環境の違いも実感できます。
実際、報道番組によると、アメリカのトランプ大統領は聖書の天地創造やアダムとイブなどに関する記述が事実だと信じてるキリスト教福音派の人たちの支持を得るための政策をかなり本気でとっていると伝えられており、宗教への配慮が見受けられます。
それはさておき、この映画のテーマについての個人的な解釈は、的はずれなことを承知で、大雑把に括ればこういうことです。
『宇宙に存在するすべてのものは、ビッグバン直後に生成された原子や素粒子などの粒で出来ている。地球で生まれた生命もまた奇跡的な偶然による結合があったにせよ、構成要素はそれらの粒である。一見すると、宇宙や海や人間のサイズ、スケール感はまったく比較にならないほど違うが、粒としての繋がりの前では何も違いはない。大げさでなく、あなたも宇宙の一部なのです。
海獣の子供は、人間世界が不安や疑心暗鬼や諸々のマイナス因子に覆われたような時に、祝祭という形で現れる一種の調整或いは浄化装置なのである。』
粒という表現、実は西加奈子さん原作の映画「まく子」でも出てくるのです。近年、重力や素粒子など最先端の科学的知見が映画や文学でも、人間存在の意味や成り立ちなどの哲学的観念を語る上でとても重要な要素になっていることが分かります。
この映画は『存在』という観念の成り立ちをソラやウミや海洋生物に仮託して描いているのでかなり分かりづらいところがあると思いますが、次に示した映画などを観ると発想の部分的な繋がりも垣間見えて本作理解の一助になると思います。前述の小説「オリジン」も合わせるとより自分なりの解釈が立てやすくなると思います。
・2001年宇宙の旅…ラストのスターゲイトからスターチャイルドに至るシーンは既視感を覚えるかもしれません。
・ペンギンハイウェイー…身近な世界と宇宙の繋がりへの想像力の働かせ方(それなりに頭が疲れますが)
こちらの蒼井優さんは声だけなのにメチャクチャ魅力的です。
宇宙もあなたもすべては粒でできている、というのは実は嘘かもしれません。映画の中でも語られていた「ダークマター」。現在分かっている星や物質(我々人間も含めて)の質量の総量は、宇宙全体の質量のたった5%程度で、ダークマターですら27%、残り68%は未知のものでダークエネルギーと呼ばれているそうです。それらもビッグバンで作られた〝粒〟なのかどうかまだまだよく分からないことがたくさんあるのですね。