「点と線」海獣の子供 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
点と線
原作未読ながら、今夏の奴メジャーなアニメ作品群の中のトップバッターとして上映される本作を鑑賞した。そして鑑賞後にネットにて初回分を拝読したのだが表題として、原作には無いアニメのインパクトと色彩の鮮やかさが点ならば、アニメもっと具体的には約2時間弱では体現できない時間の流れを原作はきちんと表現されていたと感じた。と言うことは、今作の圧倒的キモは動画のダイナミズム、繊細な表現力と、刻一刻と変わるスピード感、そして聴覚に訴えかけるドラマティックな劇伴と、まるで今作品や曲の為にあるのではないかと勘違いするほどのダイナミズム溢れる米津玄師の歌声とハーモニー。これ程のインパクトをスクリーンに叩き付ける事が出来た映像美は称賛に値する。
次にストーリーだが、前述の通り、原作ではそれなりに機を熟す迄に時間を掛けて辿り着き、クライマックスへと大波が崩れる如く進むのだが、やはり映画だとその辺りが生煮えの状態になってしまい、期待値を上回るカタルシスは難しい。特に原作の難解さは、アブストラクトを基準にして、映画『メッセージ』に匹敵する程である。アニメと言えば定番はファンタジーだが、これはもう哲学や、禅問答に近い域に辿り着いていて、理解する事自体拒否されるプロットだと思う。とすれば、その形而上的な物語をあたかも感情だけでも寄りそうように意識するには時間が必要である。なので或る意味、今作はその辺りの作品の読解力を潔く削って、より観念のイメージを前面に押し上げた構成にしたのであろう。肺呼吸や水圧なんてものは追求するだけ野暮だし、ファンタジーとリアリティの区別は、劇中に言われる“似ている”という言葉で括られればそれ以上はもはや意味がない。そもそも今作においては物語中に、言語化できないモノがこの地球上に殆ど埋め尽くされているとの設定で釘を刺しているのだから、ツッコミなんて受付やしない。そうして何重にも保険を掛けての作品を楽しむのならば、もうこれは宇宙だとか海の中だとか、万物の神秘性を疑うことなく鑑賞するという姿勢でしか楽しめない、かなりハードルの高い作品なのである。
そんなポエティックな世界観溢れるシーンの中で、それでも人間が手を掛けるシーンが“料理”である。このシーンの美味しそうな調理の風景がとても印象深く頭に残っている。あれだけの宇宙や海の壮大なスペクタクルシーンが表現されていても、やはりより現実的な、直感で理解出来るシーンの方が覚えているところに人間の懐の浅さが露呈されているようで我ながら恥ずかしい限りだ。
星の誕生は人間で言うところの思考、人間はどこから来てどこへ向かうのか、みつけて欲しいから光る等々、哲学要素が満載で、しかし、動物は人間と違い、言語化せず伝えたいメッセージを全て送る術を行なっている等の理屈が洪水のように溢れる作品として大変特殊で異質感たっぷりな感情を頂いた。