「子供の瞳に映る美しくも不条理な世界」僕はイエス様が嫌い しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
子供の瞳に映る美しくも不条理な世界
ほんのささやかなファンタジーが、現実の裏に優しく寄り添うようなフィクション作品が好きだ。
美しい雪国の気色、友達とのかけがえない時間、不思議な出来事、事件を経過して少し大人になっていく心。
【子供の目線になって】ではなく、本当に子供が見て感じた気色や想いを写したようで、良質な児童文学を読んでいる心持ちだった。
ミッションスクールが舞台の物語だが、宗教について、子供らしい無邪気さと、いい意味で日本人らしい曖昧さを持って描いているような気がして、肌に馴染む。
「神様ってホントにいるの?」と尋ねた少年が、願い事を叶えてくれる小さなイエス様に会って、祖母と並んで仏壇の祖父に線香をあげ、神社ではお賽銭を納め、手を合わせる。由来は柏手を2度打ち、和馬は指を組んでいる。賽銭箱の上には小さなイエス様がうろついている。「何をお願いしたの?」と笑い合い、食前の祈りでふざけて母親にたしなめられる。
向かい合う神の名は違えども、子供の柔らかで初々しい心の中では、祈りの対象に明確な区分けは無いように思える。
また、宗教と信仰というデリケートな主題でありながら、主張は極めて控えめに感じる。
感覚も、感情も、静かに圧倒的に押し寄せてくる。けれど、解りやすい正否や主義を強く押しつける事がない。
それ故、受け取り手は他人事のように眺めるのではなく、追体験するように自分の中で咀嚼出来る。
私には心地良い感覚だった。
他愛もないお願いを叶えてくれた小さなイエス様は、本当に叶えたい願いを、心から必死に祈った時には、姿を現さず、叶えてもくれなかった。
祭壇に響いた衝撃が、現実の不条理に「何故!」と問わずにいられない人々の、悲痛な叫びに重なる。
大人になって、現実はままならないのよ、と理解して生きようとしている私の中の、割り切れずにいる子供が、由来と一緒に拳を叩きつけた。
逃げ出した鶏、祖母の見つけたへそくり、見た振りをした流星群。
何でも叶えてくれる神様がいない事を少年は知った。
それでもいつか、遠い空から見守る何かの存在を、彼は感じるだろうか。
一面の雪景色、俯瞰で捉えられた子供達、ブランコ、もの思う由来の斜め横顔、いつも同じアングルで撮られた食事風景、色褪せたトーン。
映像も独特の雰囲気を醸して美しく、一枚一枚のポスターのようだ。
何処を切り取っても絵になる。