「彼女の持つ敵意」HOSTILE ホスティル nobuosanさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女の持つ敵意
多くのレビューとは異なる視点で恐縮ですが、私はこの映画を評価しています。
まず、タイトル「敵意」の意味を考察するに、そうした感情を怪物は持ち合わせていないと仮定したとき、人対人という構造が想像できました。作品内で見受けられた「敵意」は、主人公から発せられたものばかり。自身の境遇、恋人、自身を見捨てた組織、怪物…。どれも正当化できそうだけど、敵意むき出しで反応するより「他に方法はないのか?」と思って観ていました。
次に、怪物については、ラストを見て「初めから攻撃していなかったのでは」と思いました。途中で現れる悪党は瞬殺するのに、なぜ主人公には詰めが甘いのか不思議でしたが、「彼」は言語を失っていたので声をかけられず、何とか彼女にアプローチを図っていただけだったのではないでしょうか。
最後にラストについては、大どんでん返し❗これでこれまでの回想が全て生き返り、作品全体の捉え方が変わりました。最後に一緒に死ぬことを選んだのは、敵意の中でずっと生きてきた彼女らしい「諦め」だったなと思いました。あれほど彼から「諦めるな」と言われていたのに、結局は彼女の価値観は変わらなかったということではないでしょうか。
私は、この作品のタイトルがいい仕事をしているなーと思いました。結局、人は自身を変えたくても、価値観から変えなきゃならない。でも、変えるべき自身の価値観にはなかなか気づけないということだと思います。彼女が敵意をコントロールできる人であれば、結末はもっと変わったのでは。組織と決別せずにアドバイスをもらい続けていれば、怪物が「彼」だということに早く気づけたのでは、怪物が「彼」であると分かったときに、人類と「彼」の共存を模索しようと動き出す、とか。いずれも敵意にとらわれた人間には無理そう。ということで、なかなか秀逸な作品であったと私は思いました。