「人間の無邪気さと面倒くささ」劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン Pegasusさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人間の無邪気さと面倒くささ

2020年9月19日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

幸せ

舞台挨拶付きライブビューイング上映にて。
アニメ映画は普通90分あれば長尺くらいで120分あれば大作と呼んでいいレベル。
まず驚いたのは本作は本編が140分もあること。2時間20分もある劇場アニメなんて『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が初めて。
上映時間を見るだけでも京都アニメーションの本気が伝わってくる。

覚悟はしていた。
テレビシリーズをNetflixで観たときも、泣きはしないけどグッと込み上げてくるものがあったから。
だから泣く覚悟はしていた。
開始5分くらいでスクリーンに「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」と映し出されたときにはもう泣きそう。
そして多分一番の感動ポイントでは知らぬ間に涙が溢れた。
"私なんで泣いてるんだろう"そう思ったらさらに涙が溢れる。
そして終盤。
「ベタだしツッコミどころ満載で音楽で盛り上げすぎ」という普通なら減点ポイントになるところすら今作は加点ポイントになる。
ベタで何が悪い!音楽で盛り上げて何が悪い!とでも言うかのように見事な演出でツッコミどころですら泣ける始末。

やっぱり京都アニメーションは心理描写がめちゃくちゃストレートに刺さる。
美しく繊細で残酷な脚本や作画が素晴らし過ぎる!これは京アニファンでもなく、アニオタでもない映画好きとして断言出来る。

座席が全席販売解禁になり久々に左右に人がいた。左隣は小太りの中年男性。右隣は親子で来てた中学生くらいの女の子。ちなみに前には見るだけで「オタク」と分かるような男の人だった。
前述した一番の感動ポイント。
中年男性はハンカチで涙を拭き、中学生は指で目を擦り、オタクは鼻を何度も啜ってた。というか劇場のあちこちから鼻を啜る音が聞こえてきた。
こんなにも啜る音がしたのは午前十時の映画祭で観た『砂の器』以来だな。

題材で泣き、作画で泣き、脚本に泣き、ヴァイオレットに泣き、ギルベルトに泣き、歌に泣き、舞台挨拶のキャストのインタビューで泣いた。
とにかく素晴らしい作品だった。
アニメとしても、映画としても、芸術としても。

当たり前のことを当たり前のように伝えられる素直な生き方をしたい、と心の底から思えた。
鑑賞後の昼飯でいつもより「いただきます」が気持ち良く言えたのは多分そのせい。
言葉の持つ力って凄いな、とつくづく思う。
今作でもヴァイオレットが力強く生きてこれたのは「あいしてる」というたった5文字のおかげだし。
ヴァイオレット・エヴァーガーデンの特徴的な作風の一つに決め台詞の肝となるところはセリフで言うのではなく、画面に文字を表示させるだけ。
見慣れた日本語が表示されるだけなのに泣けてくる演出なんだよね。
同じ言葉でも日常で見たら「はっ?」ってなるだけなのにヴァイオレットだと泣けるんだよな。
本当に言葉の持つ力は凄いと思った。
SNSでの誹謗中傷が問題になっているこの時代全ての人に見て欲しいです。

京アニさん。こんな素晴らしい作品をありがとう。「あいしてる」

12/12 ミッドランドスクエアシネマ Dolby Cinemaにて2度目の鑑賞。

ドルビーシネマで観てよかった!
こんなに奥深く緻密な画面だったのか!と驚いた。
ヴァイオレットの鼻水まで見えたし、瞳の表現がホントmm単位の細かいところまでこだわり抜かれていてスクリーンを観てるだけで心を揺さぶられる。
2回目ということもあり泣かなかったけど(正直危なかった)エンドロールを眺めていたら何故か無意識に唇が震えてきた。
こんなにもエンドロールを大切にしたのは初めてかもしれない。
そして、戦争のシーンや戦争についてのセリフ、そこでの人物の表情を観ていると自然と京アニの事件が重なってしまった。

「伝えらることは伝えられるうちに」
「強く願っても叶わない夢」
「失くしたものは大きいな」

こんなセリフが重くのしかかってくる。
この作品はある種の事件に対する京アニからの手紙のような存在なのかもしれない。

Pegasus