「地獄は現在進行形」ボーダーライン ソルジャーズ・デイ Movieアパートさんの映画レビュー(感想・評価)
地獄は現在進行形
この世の地獄の有様を容赦なく叩きつけてきた前作では、実態の掴めない事態にひたすら振り回され続ける主人公目線でのお話だったが、続編の今作は地獄の内側 に入り込んだ人々の目線からのお話
映画の冒頭にとてつもなく惨たらしい出来事が起こるというつくりは前作と同様だけど、今回はその意味するところが大きく違う
前作で メキシコ麻薬戦争 という実在するこの世の地獄を嫌という程見せつけられた観客としては、この続編冒頭のショッキングな出来事を前作のように 部外者 の立場で見ることは出来ないからだ
そういった意味で今作の冒頭場面で見る側が感じるのは こんな酷い場所がこの世にあっていいのか? ではなく まだ地獄は続いているのか… という絶望
今回の続編は、登場人物は勿論観客までもさながら共犯者のように飲み込んで
この世に地獄がある事を知ってしまった人
の生き様を見せていくような話だった
とにかく今作最大の魅力は間違いなく、前作終盤から完全に主役となっているベニチオデルトロ演じるアレハンドロの驚異のハマりっぷり。
どこにたどり着こうとしているのかもわからないほど混沌としているメキシコ麻薬戦争のど真ん中を生きる彼の 血の海 の中を歩くような絶望と、それでも一人の人間として歩き続けようとする生き様を完全に体現するベニチオデルトロの渋さは最早 神々しい と言ってもいいぐらい。 ダークナイトのジョーカーとかノーカントリーのシガーとも並ぶ、近年稀に見る映画の中の闇の住人っぷりである。
また、今作では 地獄 が広がっていく様を印象付けるように、ある二人の若者が 巨大な闇の中に少しづつ飲み込まれていく姿を見せていくのだけれど、彼らを通して絶望と同時に僅かながらの希望も描いていくのがとても上手い
話の中心に未来の象徴である 若者 を据えた事で、この映画は 今現在 だけの話じゃなくて これから先どこに向かうのか或いはどう在ろうとするべきなのか という目線にまで射程が広がっていると思う
不吉をそのまま表すような音楽の素晴らしさは前作同様だし、視界の悪い舗装されていない道とか、視覚的にも不安を煽るような演出の妙が随所に散りばめられていて凄い
この話を 面白い という言葉て表現するのは語弊があるかもしれないけど、それでもあえて 最高に面白かった と言いたい
切れ味鋭いラストを見てしまうと 続編を期待せずにはいられない