「獣たちの絆」ボーダーライン ソルジャーズ・デイ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
獣たちの絆
アメリカ/メキシコ国境沿いの対麻薬戦争を描き、高い評価を
得たアクションスリラー『ボーダーライン』の続編が登場。
監督は前作のドゥニ・ヴィルヌーヴから
イタリア人のステファノ・ソッリマにバトンタッチ。
(イタリアで着実にキャリアを積んできた方らしい)
本作のあらすじ。
アメリカ政府はメキシコの麻薬組織(カルテル)を
テロ組織と認定。強力な後ろ盾を得た国防総省のマットは
レイエスというボスが仕切る巨大カルテルを混乱に陥れるため、
彼の16歳になる娘を敵対組織の仕業に見せ掛けて誘拐しようと
企てる。実行役は、マットの旧知の暗殺者アレハンドロ。
誘拐は成功するものの、その後、事態は思わぬ方向へ――。
...
前作のオープニングにもゾッとさせられたが、今回の
冒頭で描かれる事件はよりストレートでむごたらしい。
一見すると麻薬組織とはあまり関連の無さそうな事件
なのだが、これがやはりメキシコ絡みの話になってくる。
また、カルテルは麻薬だけでなく密入国の斡旋も大きな
資金源としているそうで、この“ビジネス”と
前述の偽装誘拐が同時並行で描かれる流れ。
前作では主にカルテルによる麻薬流入ルートについて
描かれていたが、今回はカルテルの“ビジネス”をより
広範囲に描いている上、メキシコではなくアメリカ側で
影響を受ける人々がより具体的に描かれているので、
アメリカ在住の人々には更に身近な恐怖として
カルテルの存在が描かれていると言える。
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主人公アレハンドロとマット。
前作にて正義も倫理も無視した情け容赦無いやり方で
カルテルを混乱に陥れた彼らだが、今回はそんな
二人ですら決断を躊躇するような瞬間が訪れる。
「こればかりは」と苦渋の表情を浮かべるマット。
「やるべきことをやれ」と戦友に声を掛けるアレハンドロ。
獣だらけの無情な世界に慣れ切ったように見えた二人に、
まだ人間的な部分が残っていたと思わせる描写が熱い。
そしてアレハンドロと麻薬王の娘イサベル。
自分の娘を連想させるのか、珍しく微笑みさえ浮かべる殺し屋。
気性の荒いイサベルも、彼の人となりを知り、信頼を寄せていく。
(イサベルを演じたイザベラ・モナーがグッド。目力はあるし
繊細で良い演技もする。どこかで見た気が……と思ってたら
『トランスフォーマー/最後の騎士王』に出てたあの子!)
前作よりも規模の大きいアクションシーンも増え、
キャラクターにも少し人間味が宿った点が魅力的だ。
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だが前作よりも……なんと言い表せばいいか……
焦点がやや定まっていない感じを受けた。
観終わった後、物語の全体を捉えようとした時に、
少し輪郭がぼんやりして感じる、というか。
まず、前作よりもアレハンドロとマット(特にマット)が
ナイーヴになった印象を受けたり、素敵なキャラだが
寓話的なエンゲルの登場等で、前作の冷徹な世界観が
後半わずかに薄まってしまった気がするんである。
また前作にはケイトという、観客と同じ目線で物語を
先導するキャラがおり、観客は彼女を通して倫理観を
容赦無く揺さぶられる感覚を味わった訳だが、今回は
4人の主人公がそれぞれ描かれ、視点や思惑が分散。
ここが自分の「ぼんやり」という印象に繋がったのかも。
あと、マットやイサベルの決着をもう少ししっかり
見たかった、という消化不良な気分も含まれている。
...
テーマの点で言えば、今回は『ボーダーライン』ではなく
原題『Sicario(暗殺者)』に寄った内容と言えなくもないが――
とある人物をアレハンドロが引き込む流れは、
あんまり得心の行く流れではなかったかな。
まとめると、前作よりテーマとして訴えられるものは弱く、
冷徹な世界観も後半やや弱くなってしまう感はあるのだが、
キャラクターの魅力やアクションの迫力は増しているし、
世界観の拡張=カルテルの実態の深堀りはさらに注力されている。
前作よりは落とすが、それでも観て損ナシの3.5判定です。
<2018.11.17鑑賞>