「【暴力で現実を捻じ曲げるIFの物語】」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 芥さんの映画レビュー(感想・評価)
【暴力で現実を捻じ曲げるIFの物語】
最近映画鑑賞が趣味になった自分としては、ブラピとデカプリって共演してなかったの?!と、先ず驚きました笑。
このスター二人の共演を実現させてくれたタランティーノ監督に、大袈裟に脇を上げた敬礼を送りたいです!
無知を晒し恥ずかしいばかりなのですが、この映画を鑑賞するまで、シャロン・テート事件について、なんの予備知識も御座いませんでした。なので、僕のように事件の詳細自体を知らない人からすると、「ずっとなんの話しをしているんだ?」という意見になるでしょう。
そういう方々には、鑑賞後、僕のように解説動画をYouTube等で見る事をお勧め致します。作品への理解度がグッと上がり、作品への向き合い方も変わる事でしょう。
やはり、タランティーノ監督はキャラクターを描くのが非常に上手ですね。この映画の主演と助演の『リック・ダルトン』と『クリフ・ブース』。この二人がとても対照的に描かれていたのは、一目瞭然です。
華麗なる功績をTVシリーズに残し、良くも悪くもその過去が、現在の自分の俳優人生にまで尾を引いている『リック』。兵士としての役目を終え、スタントマンとして第二の人生を謳歌する『クリフ』。二人とも過去に素晴らしい業績を残しているが、二人の間には、過去に柵が有るか無いかの対比があると、僕は考えています。
序盤で『リック』を高級そうな車で送る『クリフ』。豪邸の前にある坂も緩やかに、丁寧に登ります。その後は『クリフ』がオンボロな私有車に乗り換え、豪邸前の坂を勢いよく、乱雑に降ります。
ここのシーンは凄く印象に残りましたね。
自分の持ち合わせている語彙力では細部まで表現出来ませんが、親友であり、そしてボスでもある『リック』を丁重に扱う、『クリフ』のプロ意識が伺えた瞬間でもありました。
二人から醸し出される渋い漢のフェロモン。内容を理解していなかろうが、この雰囲気だけでも溺れてしまえるくらいに、ブラピとデカプリの相棒劇は最高でした。
《何故このようなIF物語を作ったのか》
現実で起きたシャロン・テート事件も、創作物に敵対心を持ったヒッピーが事件を起こします。今作で起こる事件も同じ理由です。ですが、結末が違う。
今作はそんな悲しい事件を、創作の力を使って、血で塗り替えました。過激な暴力シーンが苦手な方や、現実世界に重きを置いている方等は、酷く避難される事でしょう。
しかし、完全に個人的な意見ですが、これこそが映画の真髄だと、僕は思います。
悲しい事件や、自分の身に起きた散々な出来事。それを創作物で気を晴らす。現実では暴力はしてはいけない事だけれど、創作にはそんなルールありゃしない。
このタランティーノ監督の姿勢に、僕は非常に感銘を受けました。
殺人や暴力をコミカルに描く“タランティーノ節”は強烈なもので、それまで真剣に見ていた僕も、ラストシーンでは思わず笑ってしまいました。
ヒッピー文化に対するアンチテーゼ。映画文化を肯定するタランティーノ。現実と創作を同じ世界に閉じ込める人々を好ましく思わない僕からすると、今作のハチャメチャにぶち壊すその様は、非常に見応えがありました。