「タランティーノのハイレベルなブラックジョークで歴史的事件を切り取る」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
タランティーノのハイレベルなブラックジョークで歴史的事件を切り取る
最後の最後までこの映画の評価を迷い悩んでいたけど、ラストシーンをみた瞬間に評価が確定した。これは完全に面白い!
あまり前情報を入れずに映画を観る性質なので、なんとなくハリウッド業界の内幕ものというような作品かな?なんて高を括っていたら、チャールズ・マンソンのシャロン・テイト殺害事件を、あのような切り口で、ある主“ブラック・ジョーク”にしてしまうなんて!と驚いた。でも確かにそれが出来るのってタランティーノを含めごく限られた数人しかいなかったはず。作品を観て「この映画はタランティーノでなければ絶対に撮れないし、タランティーノでなければ許されてもいないかもしれない」とさえ思った。架空のハリウッド俳優とそのスタントマンという人間を、あの時代のマンソン・ファミリーの手前に置き、その二人を通じてシャロン・テイト殺害事件を切り抜きコラージュしていくやり方。事件そのものは知っていても、背景の細部までは詳しくなかったので、この映画のジョークがどこまで効いているのかを正確には判断できないのが残念なのだけれど、少なくともラストの襲撃事件に至る部分での大クライマックスとその後のエンディングに込められたジョークと皮肉が完全に私の心を掴み、そこまでのストーリーで理解できなかったすべてが解せる気がした。この映画は全編にわたり、あのようなハイレベルなジョークと皮肉で構成されていたのだろうと。
日本の予告編だとまるでディカプリオとブラピの友情ストーリーかのようにも見えるし、宣伝も二人の共演とタランティーノ監督のタッグしかアピールしていないので、これではチャーリー・マンソンとシャロン・テイト殺害事件にピンと来ない人にはまったく意味がわからず、まったく正当に評価してもらえない作品になってしまうと不安になった。私自身も、これはもう一度見直さなくては!と思った。全編に張り巡らされたジョークと小ネタをもう一度確かめたい!
そしてこの映画は、何よりタランティーノが楽しそうだなと思った。この映画を構想し製作しているタランティーノの楽しそうな姿が目に浮かぶようだと思った。同時にディカプリオとブラピの円熟味も堪能させられた。ディカプリオなんて「ウルフ・オブ・ウォールストリート」でのぶちギレ演技以降、何かが吹っ切れたのか、ブラピの肩でいきなり泣き出したかと思えばトレーラーで発狂してFワードを連発したりめちゃくちゃやりながら(ラストのプールで火炎砲を出してきた時は声を出して笑った)、決めるところでビシッとドラマティックに決めるカッコよさ。ほんといい意味で「役者バカ」だなって思う(絶賛)。そして今回はブラピがとにかく良かった。ブレイク直後くらいの時期のブラピが放っていた青臭いような色気がまた復活したかのようで、加えてその色気がいい具合に熟して、ここ数年の少々やつれ気味な感じが完全に払拭された印象(アンジーを責めてはいない)。ぶちギレ演技を見せるディカプリオの横にいてディカプリオより存在感を見せているシーンも少なくなかった。
160分の長尺が存外あっという間に感じられるほど、疾走感と充実感に満ちた、面白い映画だった。