「引き延ばすけどブレない軸」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
引き延ばすけどブレない軸
3週目に入ります日曜の午後でほぼ満席。
ディカプリオとブラピの共演とはいえ、映画偏差値の高いイメージのあるタランティーノ作品でなんだか不思議な感じ。。
字幕しかないようなので字幕版です。
ところどころ聞き取れる英語のセリフもあるのは嬉しいんですが、とにかく情報量が多いので、できたら吹替版もやって欲しい派。
感触としては3回くらい観てやっと「観た」と言える感じ。
とはいえストーリーラインはシンプルで、落ち目のキャリアに悩み情緒不安定なディカプリオと、スタントマンとしてビューネ君のごとく彼をケアするブラピの現実とが、ハリウッドを震撼させたシャロン・テート事件とクロスしてどんな結末を迎えるのか、それだけ。
アタマの長い長い会談場面でそれを印象づけたら、あとは彼ら2人とともに往年のハリウッドの街に繰り出すだけ。
まあその冒頭からあまりの引き延ばしっぷりになかば呆れるわけですが、空気感の作り込みが徹底してるので、不思議と退屈しないんですよね。
またネタ的に近い「マルホランド・ドライブ」では描かれなかった実際の撮影現場を見せることによって、尺はかさみますがディカプリオのドラマに実感を伴って寄り添うことができます。マルホとは予算も違うでしょうが、この差は大きかったと思います。
以下、ほんのりとネタバレします。
マンソンファミリーの事件に関しては、結局今もってよくわからない。ただ、正しい対処としてはこれしかない! という明確な決意表明を感じました。
およそ常人には理解不能な異様な出来事に対して、生半可な好奇心でもって接近したり、下手に深淵を覗き込むような愚を犯しません。ただやるべきことをやる、という潔さ。
最後、あの門が開いたとき、そこにはあり得べき未来が拡がっているようで感動的でした。
ただ、現実のシャロン・テートが赤ちゃんとともに惨殺されてしまうことは変わらないわけですが。
「シャロンを墓石の下から救いたかった」とは監督のコメントですが、まさか(物理)とは…
ただ、力点としては終始ホモソーシャル感の漂う主役コンビに置かれているため、肝心のシャロン・テート自身はあくまで映画の天使みたいな未来に胸を膨らませる新人女優の象徴のごとく描かれ、高名な監督の妻であること、まもなく子供を迎える母親である以上のパーソナリティを伺うことはできません。
作品の意図としてはそれでいいのかも知れませんし、また実際のフィルムを引用することで一応のエクスキューズは入れていますが、これだけの長尺で、元彼まで出したりしておきながら、結局はマリオに救出されるピーチ姫以上の存在にはなっていないように思いました。