「俺はこの作品を支持する」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド ヒロさんの映画レビュー(感想・評価)
俺はこの作品を支持する
タランティーノが良作を撮った時の感じ、ウィスキーを嗜む時のような、情緒ある町を散策しているような、そんな雰囲気を嗜む映画に仕上がっている。
しかし、この作品。何を伝えたいのか、話がどこに向かっていくのか分からないと感じた人も多いのではないだろうか。その通りだと思う。この作品は物語を伝えることを目的としていない。タランティーノ自身の幼い頃の心象風景を彼のスタイルで映画化している。
この作品を見てタランティーノが改めてどういうタイプの映画人なのか分かった。彼はアクション、ホラーと言ったジャンル映画を娯楽として作れる職業監督では無い。
映画、テレビ、そして60〜70年代アメリカの大衆文化を引用しながら彼の気持ちを映画という形で表現する作家なのだ。アンデォーウォーホールに似ていると言えば良いか。
これまでの作品もそうだが、元ネタの映画引用の方が先行してしまいそれが伝わりにくかったのかもしれない。本作はタランティーノの映画が非常に個人的な作品なのだと分からせてくれた。
ここからはガッツリネタバレになります。
この作品を見て「殺人者はライフルを持っている」という映画を思い出した。ネタバレしてしまうが狙撃で連続殺人を行う男を下り坂のロートル俳優が一括して捕まえるという話だ。狙撃手の殺人鬼をマンソンファミリーに置き換えたらまんま本作である。
しかもこれらの悪魔をどのように成敗するかというと、かつてスクリーンで活躍したヒーロー達に戦わせるのだ。日本で言えば過去の仮面ライダーや戦隊ヒーロー俳優(10〜20年くらい前の特撮作品で活躍した俳優の立ち位置だと思えば本作の感じに近いか)が実際に殺人鬼と戦うイメージだ。
イングロリアスバスターズ(以下、イングロ)では映画という武器で戦っていたが本作の武器は映画の中、偶像の世界そのものである。
本作が秀逸なのはラスト。イングロ、ジャンゴと歴史上の悲劇を虚構の中でだけでも救ってきたタランティーノだが、今回はシャロンテートを救った。すごく悲しいけど少しだけ温かく思える不思議な感覚。インターホンから聞こえるあの声が現世から発せられている気がしない。あの門が現世とあの世を隔てるように思え、ラストシーンはディカプリオがあの世に遊びに行ったように映るのだ。
この映画は他にも魅力が溢れている。ディカプリオ演じるリック・ダルトンだ。全盛期を過ぎたスターが自身の現状とプライドの狭間でもがくというキャラクター。悲壮感が漂ってもおかしくない役なのだがどこか抜けていて憎めない。普通の映画なら彼が困難を経て今の自分を認めてこれからの人生と向き合えるようになる、という流れだが本作では普通のストーリーテリングを捨てているのでリック・ダルトンは自己への一括で最高の演技を見せる。そこから何か自信のようなものを得てイタリアへ行く。この一見、普通の映画っぽくない流れ、リック・ダルトンの変化のきっかけが無い所が逆にリアルだと思った。そして彼が外部からの影響無しに自力で復活したことが、彼の強さやなんとなく魅力的に思えた。
対してブラッドピット演じるクリフブースだが彼は刹那的に生きすぎてて俺はあまり乗れなかった。この役はイングロでブラピが演じたアルド・レイン中尉が復員したその後を描いているようにも思えるし、ブラピが演じているから画になっているが極限の修羅場をくぐってきた彼が現世でごちゃごちゃやってる人間を突き放して見ているような気怠さ、いつでも躊躇無く人を殺せる冷たさがあまり好きにはなれなかった。(カートラッセルも嫌ってたし(笑))
ただ、彼がスパーン牧場を訪れる場面、ここは本当に怖かった・・・。タランティーノ、ホラー演出出来るんじゃん!とビックリした。あそこの異常性、緊迫感は秀逸だった。
ただ女性に暴力振るうのはどうかな。
しかし、そういえばタランティーノは女性にキレる。パルプでもジャッキーブラウンでも女性にキレてたし、デスプルーフ、イングロ、ヘイトフル8ではボコボコにしていた。(キルビルなんて女性に暴力振るうのが目的みたいになってたし)
現実で行えないことを虚構の中でやり放題するのがタランティーノのなのかも。
と思えばタランティーノは人の尊厳を犯す者を徹底的に映画の中で罰してきた。それはデビュー作から一貫している。そして虚構の中だけでも被害者を救い、福音を与えてきた。
そんなタランティーノの作風が最も表れている作品だと思う。
次はタランティーノの10作目。彼が引退を公言している作品だ。
彼が自分の人生最後の作品を撮るならば、やはり主演はティムロスでお願いしたい。
私もインターフォンの声に心が温かくなりました。
本当の肉声なのかな?とか、まぁ ありえませんが、
そうですね、天国と交信していたような、
そんなことを一瞬 思いました。
ヒロさんへ
それです!「タランティーノの願望が、実は皆んなが思っていること」は、正にその通りだと。で、「皆んなが思っていること」は、結構ドス暗いもんで。口に出すのも憚られる事を、映像化ギリギリOKにして映画にしてくれる所に惹かれるのだと思いますw
ヒロさんへ
インターフォンの件です!
タランティーノ作品のキャラクターは、タランティーノ自身の「現し身」だと思っています。「シャロン・テート事件を阻止したかった」し、「あの強い強いブルース・リーを投げ飛ばしたらカッコ良いだろうな」などなど。「自己願望の羅列」がタランティーノ作品の本質じゃないかと。
インターフォンの声は、ヒロさんの言われる通り、あの世からのモノだと、俺も思いました!
「褒めてよ、おれを」って事なんでしょうね。
「自己願望の映像化なので10作も撮れば気が済む」てのが、タランティーノの考えだと思ってます。10本目、楽しみですw