「愛と切なさと」さよならくちびる 太陽伝さんの映画レビュー(感想・評価)
愛と切なさと
今回が最後となる「ハルレオ」の解散ライブツアーの旅立ちから物語は始まる。ハルとレオのぎすぎすした関係に挟まれたマネージャーのシマ、三人は7ヶ所の〈ハコ〉を回り、あとは赤の他人となる筈だったが・・・
三人それぞれのバックグラウンドの状況説明は殆ど描かれず、唯一の例外がハルの実家へシマを同行して帰って、幼なじみの親友からの絵葉書のシーンぐらいか、あとはハルのアパートで手作りカレーを共に食べるシーン、レオの涙を怺え切れずに口に運び続けることで、レオの生い立ちを鮮やかに表現され、同時に二人の関係を浮かび上がらせる所には感動させられました。言葉での説明は排除され、画面によって三人の性格、過去、生き方が丁寧に描かれていく。そして何故解散へと向かったのか・・・
〈ハルとレオとの関係〉
クリーニング工場でレオを見た瞬間にハルは共に一緒に組みたいと思い、生き場所も生き方も見失っていたレオは、誘われるまま、手ほどきを受け、自分の方向を切り開いてくれたハルに尊敬と感謝の念を抱くようになる。ハルのために出きる事なら何でもしたい、とハルの匿された欲求に気付きそれに応えようとするも、ハルは欲望の関係としてレオを求めているのではなくユニットの相手として音楽を共にし、共に生きたい人として求めているのだった。
〈レオとシマとの関係〉
そのためレオは初めて会った時から関心を抱いていたシマへとその感情の捌け口を向けるがシマは大人であり何より「ハルレオ」を壊したくなかった。
〈シマとハルとの関係〉
シマはハルの音楽的才能に心酔していたが、ハルの深い苦しみをハルの帰省の時に気付き、それでもハルに対し強く惹かれていく。
ハルはレオを、レオはシマを、シマはハルを、とその思いに微妙に行き違いが生じ、結果解散となるのだが、私たち観客はそうはならないでほしい、きっとならないだろう、と希いながら見続ける。
そしてラスト、高架下に停まった車から二人は荷物を持って降り、二手に別れるのだが、カメラは車の後部を見つめ、ほんの少しズームアップする。私たちはその時希みが叶うのではないか、とシマのアップに切り替わり二人がバックドアを開け荷物を放り込む。
シマは言う、解散公演までしたんだからな、戻るのなんてあり得ないからな、と怒る素振りで声を張り上げるのだが、その言葉とは裏腹に心は快哉を上げているのだった。レオは言う、お腹が空いたから取り敢えず食べながらその話はしようよ、とハルも清々しい笑顔で笑いをこらえながら。
涙なくしては見れない奇蹟のような素晴らしいシーンでした。
それぞれの一方通行の思いが、ハル→レオ→シマ→ハル とひとつの円の輪のように、取り結ぶことが出きるのかもしれない。切なくも哀しい、その関係が成立するかもしれない、いや成立してほしい、と思わされた映画でした。