「異常な結末」ブレッドウィナー Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
異常な結末
やっと日本語版が見られるようになったのは喜ばしい。
しかし、傑作である原作の「生きのびるために」と比べると、残念な出来栄えだ。
原作の素晴らしさは、作者デボラ・エリスの豊富な取材に基づき、
・リアルを追求している
・11歳の少女の目線で描かれる
ところにある。
しかし本作品では、パヴァーナは、少し大人びた女の子のイメージで描かれ、“少女らしい心の動き”を感じ取ることができない。
山がそびえる土地の斜面に住んでいる様子や、相次ぐ戦争で荒廃し切ったカブールの風景は、繊細に描かれており素晴らしい。
しかし原作では、爆撃で半分ぶっ壊れた建物に住んだり、人骨を掘り起こして金を稼いだりと、もっとすさまじい光景が描写されている。
ストーリーは省略され、原作が持つリアルな味わいが損なわれているが、ある程度はやむを得ない。
しかし、ストーリーの改変が後半になるほど目立ってきて、特にラストは“異常”だった。
パヴァーナと父、母と姉と弟(と原作では妹も)の、2つに家族が離ればなれになるのは、原作と同じだ。
しかし、空爆の中で刑務所から父を強奪したり、弟が人さらいのように連れて行かれるなど、原作とは無関係の別の物語になっている。
何のために、このような緊迫感のある、不自然な展開にする必要があったのだろうか?
また、亡くなった兄の名前をもつ少年が、「種」を取り返しに行くという“英雄伝説”が挿入され、現実の話と同時並行的に進む。
原作にはない伝説だが、ここで「カートゥーン・サルーン」らしい、美しいアニメーションを見ることができる。
しかし、自分には結末がよく分からず、何のための挿話なのか意味不明だった。
なぜ、兄の“爆死”の事実を認めて向き合うことが、「ゾウ」をなだめることになるのか?
「ゾウ」は一体、何を象徴しているのか?
現実の展開と空想の英雄伝説が、奇妙に相互作用し合う、自分には理解不能な“異常な結末”だった。