「一音たりとも聞き逃さず」THE GUILTY ギルティ(2018) KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
一音たりとも聞き逃さず
究極のワンシチュエーション。
「誘拐だ」と判明してから一気に出てくる緊迫感がその後もダレずにどんどん高まってくる。
電話口から聞こえてくる声と周囲の音から想像をフルに膨らませ、情報が追加されるたびに想像の画をアップデートさせながら観るのが新鮮で楽しい。
アスガーと共に電話番をしているような気分になってくる。
どんな小さな音も聞き逃すまいと息を殺して集中して観ていた。
子供に話しかけるフリをする、という機転の利くイーベン。
くぐもった声から読み取れる恐怖は相当で、最初は痛々しい気持ちになる。
しかし段々見えてくる事の真実はなかなかキツい。
「悪い男だ」のくだりで、もしや赤子を殺したのはイーベンでは?と疑っていたら本当にその通りになってしまった。
マチルダの今後の人生を考えると頭が痛い。
誤解まみれとはいえ、ミケルもただの良い人ってわけではなさそうだし。
しかし、分かりやすい弱者に気をとられると真実を取りこぼしてしまうものだな…。
まああんなの見抜けるわけもないけれど。
どこかやる気の無さげなアスガーの口調から、この部署に来てからの彼の良くないであろう態度が見て取れる。
記者の電話やら翌日の裁判の話やら、何か不穏なものを抱えた彼は通常の「デキる刑事」的な安定感が無いのが面白い。
事件そのものへの心配もありつつアスガー自身への心配もかなり大きい。
指示したことが裏目裏目に出た時の自分への失望感、緊急電話の中継係という職務がゆえ捜査を指示できないジレンマが余計に彼を追いつめ、張り詰めた糸がいつ切れるかと気が気じゃなかった。
そしてずっと匂わされていた罪の大胆な独白に度肝を抜かれた。
「何か悪い物を取り除きたかった。」彼も病んでいたということか。
イーベンもアスガーも、精神を病んでいたからって人を殺していいわけではないけれど。
緊急電話の部屋にいた人たちはびっくりしただろうな。コイツ言いやがった…!!とか思っているのかな。
ラスト、光の中にアスガーの黒い影が写ってパッと消えるエンディングのタイミングで残像が見え、作品自体の余韻と重なってグッときた。
一番良い形で終結してくれて良かった。
最後の電話は誰に宛てたんだろう。
ラシッドか、パトリシアか、ボスか。
いずれにせよ明日の裁判で供述書通りの受け答えはしないんだろう。
犯した罪も大きければ破損したPCと電話の弁償額も大きい。
ほぼリアルタイムで進む事件。
とことんリアルを追求しているかと思いきや、カメラワークやライティング、個人のイメージをグッと引き付ける部分の音量調整などがすごく映画的なのが良かった。
そしてアスガーの顔が良い。Tack.