ソローキンの見た桜のレビュー・感想・評価
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情、それは人類共通の良心
戦時下にあった日本とロシア
猜疑心が残り、傷痕が乾かぬさなか
両国の間に咲いた、小さな愛の花…
その花はいずれ…
国の美意識に象徴されるように
見るヒトの心を映すように
願いや想いを届けてくれたかのように
やがて樹木と成長して、多くの小さな花を咲かせる…
そんな想いを〈桜〉に込めた作品。
戦争はいつも
国の偉い人たちが始めて、そして終わる。
民衆の心も、体も、置き去りにして…
ヒトという生き物は、自分以外のヒトに恐怖する。
自分じゃないヒトは、分からないから
信用できないから…
本作『ソローキンの見た桜』の劇中で
あるロシア兵が言います。
「ロシア人は自分自身でも分からないほど繊細だ」と…
ですので異国民に対しては尚更分からないでしょうし
また猜疑心も深くなるのも当然でしょう…
そしてその心は、誰の中にもある。
ヒトたちの心が、引き起こした事に過ぎない。
だとしたら、わたしたちに関係ない
戦争なんて、ない。
だがそれは、あまりに大きすぎる…
我々に出来る事は、いつだって目の前の事だけだ…
だから、敵味方関係なく目の前の
傷ついたヒトたちに、できうる限り手を差し伸べる。
“ハーグ条約”とは関係なく、ヒトの心情でもって…
国と国とが接するその以前に
直に接するのがヒトとヒトである以上
相手を尊重し、信じる心をもってさえいれば
きっと、争い事もなくなる。
そんな希望を与えてくれた、骨太な作品でした。
ロシアの文化といえば、
トルストイ、ドストエフスキーに代表される文豪や
チャイコフスキー、ムソルグスキー、ラフマニノフ
プロコフィエフといった作曲家などが
日本ではよく知られていますが
こと芸術に関しては
あまりピンと来ない印象なわたしでしたが
少し前に開催されていた絵画企画展
「ロマンティックロシア展」に足を運んだ際
その叙情的な表現に
日本人の感性に通じるモノを感じました…
その展覧会のアイコン的作品
イワン・クラムスコイ 作 《忘れえぬ女(ひと)》
のイメージが、ヒロインの〈ゆい〉と重なり
感慨もひとしおでした!
(もちろんこの絵にはモデルがいるらしいですし
もろロシア女性ですが)
クドクド書きましたが、わたしが言いたい事は
つまりはこういう事です。
「人類共通の文化的な言語を用いて
ヒトとヒトとが理解し、共感し合える。
そんな世界であったらいいな!」
2019/03/25、劇場にて鑑賞
桜
あまりお目にかかれないロシアとの合作。
桜の描写がホントに綺麗だった。
4K対応とかそんなカメラなのだろうか、絵になんだか湿りを感じる。
話の展開自体は既出感を拭えないのだが、そこはもう仕方がないところだと思う。
ただ、まぁ、ちょいちょい強引な展開もあり、その都度つっかかる。
カメラが迷うのか、監督が迷うのか、的確ではなさそうなカットもしばしば。
ロシア将校と彼を担当する看護師が軸にあって、前半は特にお国柄の対比とか描かれる。
流暢な英語を操り、日本語よりも自然な芝居に、やはり英語ってのは芝居がしやすいのかと考えてしまう。
驚愕だったのは、録音部の状態があまり良くなくて安定しない事だ。雑な仕上がりだった。
まぁ、悲恋の物語なのだけども、最後に捕虜達の子孫と邂逅を果たすとこなんかは感動もする。戦争という環境にありながらも、人道的な配慮ができていた事に敬意を抱く。奪われた命たちであったのかもしれないのだ。
そして、緒形さんは曲者だった。
ロシアの国民的俳優がリーダー的な将校を演じてるのだけど、全く意に介せず我が道を往く感じに感服した。
脚本的には王道な作品ではあるのだけど、編集だったりアングルだったり、強引な意味付けだったりで、損してる感じだったかなー。
ソローキンが母国語のロシア語で書いてあるだろう日記を読めてるような演出とか…萎える。
異国の子供を身篭った娘を普通に嫁にもらうとか…旦那側には何一つメリットがなかろうに。
史実を使った、悲恋の様式美で、観客の涙腺を緩める。
いまから約100年前の日本。日露戦争(1904-1905)さなか、"愛媛県松山市にロシア人捕虜収容所があった"という、あまり知られていない史実を軸にして、日本人の女性看護師とロシア人将校の美しく悲しい歴史ロマンス。
身分や国籍の違い、または社会的所属グループの垣根を超えたロマンスは、本作のコピーにもあるように、さながら、"ロミオとジュリエット"構造の映画となっている。
元はラジオドラマを原作とする創作なのだが、史実のウラに隠された悲恋という、典型的な様式美を使っているという意味では、「タイタニック」(1997)が代表格だ。なので、あとはアレンジ展開で観客の涙腺を緩めるだけ。
本作も現代の松山市から物語は始まる。駆け出しのテレビディレクターである桜子は、捕虜ロシア兵墓地を取材することをきっかけに、自身のルーツである歴史的な事実を知ることになる。
明治維新から38年しか経っていない日本は、欧米の大国に追い付くため必死で、"ハーグ陸戦条約"の批准に向けた取り組みの中で、戦争捕虜の扱いについてもそれを遵守していた。
松山市の寺を利用した捕虜収容所では、ロシア兵捕虜にアルコールの購入や、外出許可などが認められていた。
兄弟をロシア戦で亡くし、ロシア兵を憎みながらも、看護師のゆいは博愛思想のもと、懸命に収容所での仕事に打ち込んでいた。そんななか、ゆいとソローキンは惹かれあい、やがて運命的な恋に落ちていく。
しかしソローキンには密命があり、ロシア革命に参加するため、計画的に収容所を脱走することになっていた。
ソローキンは、ゆいを一緒にロシアに連れて帰ろうとするが、ゆいには家業のために親の決めた婚約者と結婚しなければならなかった。
そして悲恋の行方は、現代の桜子が解き明かすことになる。
阿部純子が、ヒロインのゆいと桜子の2役を演じ、日ロ共同制作で、ロシア人キャストともに、100年の時を越えた運命のつながりをドラマティックに描いている。
エンディングで、松山からロシアを訪れた桜子が、初めて出会うロシア人捕虜の子孫の子供たちとシーンが感動的だ。桜子をテレビディレクターという報道に携わる職業に設定したことで、フィクションなのにリアリティを引き出している。
イッセー尾形が捕虜収容所の所長役としてキーマンとなるほか、"仕事を断らない"(笑)、斎藤工がこれにも出ている。
(2019/3/26/角川シネマ有楽町/ビスタ)
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