「正露丸はもともとロシアを征伐するための薬として名付けられた(征露丸)」ソローキンの見た桜 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
正露丸はもともとロシアを征伐するための薬として名付けられた(征露丸)
松山城や捕虜収容所跡地にも行ってみたくなる作品でした。いや、もしかすると山城に登るのがしんどくて、道後温泉に浸かってるだけかもしれませんが・・・
日露戦争時代のロミオとジュリエットなどというキャッチコピーに釣られてしまった感があるのですが、桜が散るかのごとく美しくも儚い恋物語でした。蝋燭屋の娘ゆい(阿部)が捕虜収容所に収監された将校ソローキンに恋をするが、父親(六平直政)が商売立て直しのために銀行家との結婚をほぼ決めていたのだった。現代のように自由が利かない家父長制の下では父権は絶対的。多少は甘く描かれてましたが、それ以外にも郵便物の検閲など息苦しい明治時代。とにかく、本人の意思だけでは結婚できないのです。
日本は欧米の社会から学ぼうと必死になってる面もあり、ハーグ条約の遵守を意識し、ロシア兵捕虜たちに対しては親身になり、手厚い看護も施していた。特にロシア将校たちは寺でのんびり酒を飲みながら過ごすなど、かなり自由でのどかな雰囲気。ただし、そんな中でもロシア側のスパイ、日本側のスパイなどが暗躍もしていた。20世紀初頭はロシア国内ではロシア第一革命のさなか、民衆は武器を買うための資金もなく、ソローキンはその市民革命を無血でやり遂げようと考えていたのだ。そんな帝国主義の歴史が大きく動いた背景もかいまみることが出来る。
もしかしたら毒殺を装ってロシアに帰るのか?などと想像していたのに、大きく予想を覆されました。兄貴もなかなかやるな~と思っていたら、実は裏があったり、ゆいちゃんは頑張っていたんですね。こうした彼女の初恋を貫く姿も感動的ではあったのですが、後日談が語られると、さらに泣けてくる。結婚相手となる銀行家の寛大さ、また、ソローキンがゆいの手紙を目にすることはなかった悲しい事実。そして、タイトルの意味する「桜」とは?と考えだすと奥が深いことに気づきます。
イッセー尾形の演技ももちろん良かったのですが、演技よりもこの映画を選んだ斎藤工。今年は斎藤工の年だという気さえします。ただ、この映画の残念なところは、何か所かで音楽がブツ切れ状態になるため、編集ミスなのではないかと思えたり、4K時代なのに映像が綺麗じゃなかったりするところ。これも桜のはかなさを意味するんでしょうか・・・