「青春映画の傑作」小さな恋のうた サンカントさんの映画レビュー(感想・評価)
青春映画の傑作
いきなりバンドが学校で演奏し始めるところで始まって、彼等がプロの目にとまってメジャーデビューの展望が開けるという展開に食傷気味に。しかしその後の展開は試練の連続でいい意味で裏切られた。バンドのリーダーを失って意気消沈するメンバーたち。しかし亡くなったリーダーの妹である舞が、兄の遺していた曲を演奏してほしいと頼みこみ、最初は困惑したメンバーも、再びバンドが立ち上がる。
妹の舞がギターを弾けるという設定もご都合主義過ぎないかと、天邪鬼に冷ややかに観ていたが、ここからがこの映画の真骨頂。沖縄の基地問題も相応に取り入れて、そこに済むアメリカ人の娘との交流も描きながら、音楽の力を最大限に使って映画は突き進んでいく。このベタになりそうな内容が、演じる俳優たちの熱演で説得力を持たされる。特に舞を演じる山田杏奈が希有な存在感。大人しい優等生だった舞が兄の遺志を引き継いでバンド活動に打ち込む姿を熱演。父親にギターを壊されて怒りの感情を爆発させるところは演技とも思えない演技だったし、基地のフェンス越しにSAYONARA DOLLを歌う場面は、澄んだ高い声で歌うところは天使の歌声とただ驚くばかり。新人賞を受賞したのもうなずける。
沖縄が舞台のわりに標準語なのもどういった意図かわからないが、基地と地元の人々の関わりが両方の視点も取り入れているところは好感が持てる。トミコ・クレア演じるアメリカ基地隊員の娘と舞たちの交流も結局は異動によって絶たれてしまい解決とか理解への道は遠いことにも気づかされた。モンゴル800の曲がすべてこのバンドのオリジナルという設定なのも気にならなくなるほど彼等の音楽は(テクニックはおいても)素晴らしかった。