「まちがいなく真野の代表作になる、傑出した青春群像劇だ」青の帰り道 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
まちがいなく真野の代表作になる、傑出した青春群像劇だ
たまに、こういう"秀作"に出逢えると嬉しくなる。傑出した青春群像劇だ。
高校を卒業したばかりの男女7人が地元・群馬と東京で始めるそれぞれの人生の夢と挫折を描いた、10年間の軌跡である。
はじめに触れないといけないのは、この映画自体が、とんでもない挫折を経験している。2016年8月、世間の話題をさらうこととなった出演者・高畑裕太の引き起こした“性的暴行事件”で、撮影中止を余儀なくさせられた。
髙畑の降板はわずか1週間で決まったものの、そのときすでに70%の撮影が終わっていた。夏のシーンのために1年後の2017年8月から撮り直しが行われ、1年以上の制作期間を経て完成している。スタッフ・出演者の並々ならぬ思いと努力が、作品で描かれる若者たちの挫折とオーバーラップする。
今年もたくさんの青春映画が作られ、その多くがマンガ原作だったりもするが、本作はオリジナルである。脚本は藤井道人監督と、俳優・監督のアベラヒデノブの共作クレジットだが、それより驚くべきは、原案として"おかもとまり"とあること。
あのモノマネタレントだった(結婚後、引退)の彼女。クリエイティブな仕事を目指すと発表していたが、なるほど本作の舞台である群馬県出身だ。しかも旦那のミュージシャンnao(菅原直洋)も関わっている(?)。映画パンフレット販売がなく、公式サイトの情報も少ないので、分からないことが多い。
群馬県前橋市と東京を舞台に、7人のストーリーは10年前、高校を卒業する2008年から始まる。畑が広がる田舎の一本道は、彼らの明るい未来を象徴していた。
主人公は、シンガーソングライターを夢見て上京するカナ(真野恵里菜)。そのカナの夢を手伝うため、芸能マネージャーになるキリ(清水くるみ)は、プロ写真家になる憧れを抱きつつも、家族とうまくいかずに実家を飛び出し上京していた。
ユウキ(冨田佳輔)は東京で大学生となり、ノーマルな学生生活と就活などを経験しつつも、自分の将来に悩む。その後、保険会社の営業マンになる。
趣味のギターで、カナを音楽の世界に誘ったタツオ(森永悠希)は、大学進学を目指すも受験に失敗、地元で浪人生活を送る。最初の挫折者だ。
地元の建築会社に就職したリョウ(横浜流星)とコウタ(戸塚純貴)だったが、コウタは、マリコ(秋月三佳)とできちゃった婚で結婚を決め、人生を歩み始める。
上京組への嫉妬のなかで、自分の可能性に苛立ち、葛藤するリョウは、浪人のタツオを巻き込み、職場の建築資材を窃盗し、換金する犯罪に手を染める・・・。
7人の設定が、地方出身者のありそうな様々なパターンを描いている。群馬と東京で起きる複数のエピソードが、過去と現在を切り替えながらもスマートに流れるように進んでいく。内容は連ドラにできるほどの密度で、それをたった2時間の尺でまとめる。実に構成や編集がうまい。
10年間の軌跡といっても、"現在"を2018年にしている。リアリティを持たせているため、エピソードは当時の社会事件や大衆流行と絡んでいたりもする。直接的に関わらない政治動向や東日本大震災なども、時間考証を調整しており、録り直しを含め、細かく配慮しているはずだ。
本作の世界観をさらにバックアップするのが、amazarashiの主題歌「たられば」だ。まるで映画の内容に沿って書かれたような歌詞がイメージを広げる。同曲は昨年の4thアルバム「地方都市のメメント・モリ」に収録されているが、もちろん本来の映画公開に合わせられていたはず。
主人公のカナは、まるで真野恵里菜(ハロプロ出身)のために当て書きされたような設定。不本意なアイドル活動を余儀なくされるため、アイドルの容姿と華やかさを持ち、シンガーとしての夢を追いかけるカナの歌唱力も必要だ。
主演が真野恵里菜で、ティ・ジョイ(T-JOY)系の公開だけに、公開館は多くない。けれども、これは間違いなく彼女の代表作となるだろう。
(2018/12/8/新宿バルト9/シネスコ)