「過去ではない今のわたしやあなたが映し出されてる映画でもある」沖縄スパイ戦史 fuhgetsuさんの映画レビュー(感想・評価)
過去ではない今のわたしやあなたが映し出されてる映画でもある
この映画「沖縄スパイ戦史」は、観たいというより観ておかなければなというプラマイゼロの気持ちで劇場へ向かった。
初日に満員御礼で入場すらできなかったシネマテークへいざ。
戦後70年以上経ってようやく明かされる、それくらい忘れ去り思い出したくもない忌まわしい過去。
いや、当時から極秘だった部分は遺族や住民ですら知らない闇の過去があり、生存者の中で関わった者が亡くなってようやく話せるようになったというぎりぎりのタイミングが今なのだろう。
それを追った二人の女性監督の鋭い眼差しというか、陸軍中野学校と沖縄戦をテーマに生きることへの本質に迫ったドキュメンタリー映画なのだ。
沖縄は上陸戦で激戦の中、本土は空襲と原爆で焦土となり敗戦。
それでも激戦地だった沖縄南部は牛島中将の自決するまで戦い、それが表の戦争として知られるようになった。
しかし、沖縄北部では裏の沖縄戦として知られることなくそれ以後もゲリラ戦がくり広げられていたのだ。
それが地元住民の少年を利用した戦いだったという、かなりショッキングな事実。
陸軍中野学校出身の若い青年将校が、さらに若いまだじゅうごろくの地元の少年を極秘で訓練して組織した護郷隊と呼ばれる秘密戦(ゲリラ戦スパイ戦)の特務機関があったことが、ようやくこの映画で知らされることになった。
未だに戦争はまだ終わってないことがよくわかる。
日本兵が沖縄住民を殺した話はきいたことがあるが、同じ住民同士が疑心暗鬼となり、密告して殺し合ったような話は知らなかった。
だから、この映画で伝えたかったひとつに、無かった歴史として一人虚しく死んだり殺されたり生き残ってもがき苦しんだ無名の魂たちのことを、こうして映画に記録し、たくさんのひとに観てもらうことが弔いにもなるし、報われる魂があるのではないかと思った。
そしてもうひとつには、それが遠い沖縄の遠い過去の他人事ではなく、その体質がまったく変わらず今につづいている日本の現状として、自分たちの問題でもあることを強く認識させる映画だった。
これを回避するには戦争しない努力をするしかない。
敵国が攻めてくるという恐怖心が、基地を築いて戦力を増強するのであれば、そこが真っ先に狙われる。
辺野古や高江しかり。
住民を守るための基地ではないのだから、真っ先に犠牲となるだけだ。
しかし、八重山や宮古島の自衛隊配備も進んでいる。
沖縄でかつて起きた戦史とまるで同じことがくり返されている。
戦争がはじまればどうなるか、最初は勇ましい日本兵に憧れ喜んで受け入れた住民たちがどのように裏切られ、無惨に変わり果てていったか実によくわかる。
すべては恐怖心からだ。
戦争は敵国への恐怖心で、最初は自衛が目的としてはじまる。
戦局が悪化すると仲間同士を疑いはじめ、疑心暗鬼となって敵味方関係なく殺し合う生き地獄。
過酷な戦争体験者が口を開いた今、その悲痛の叫びに耳を傾け、二度と戦争をしてはいけない、今の日本は危ないといってるその声を、ぬちどぅたからの真の意味を噛みしめたい。