「日本の原風景の中で、かぞくを考える秀作」かぞくわり asami探偵さんの映画レビュー(感想・評価)
日本の原風景の中で、かぞくを考える秀作
「日本」という国がはじまった奈良の地。奈良にはたくさんの伝説とロマンが語り継がれる。そのひとつに葛城・二上山にある大津皇子と中将姫伝説がある。折口信夫はそれを小説「死者の書」で描いた。当麻寺に今も残る国宝・当麻曼荼羅の世界である。
その「死者の書」のストーリーをベースに、現代の家族のあり方を問う、塩崎祥平監督渾身の新作が「かぞくわり」。塩崎監督自身が語っている「日本の原点、奈良で核家族した現代日本の家庭のことを考えたかった。奈良だからこそ、家族のあり方を見つめ直す機会を全国のみなさんと共有出来ると思っている」という映画への思いそのものが、美しい映像とともに観る者の心を動かす。中将姫伝説の幻想と堂下家のややこしい日常生活が微妙に交錯しながら、ストーリーは展開し、それぞれの立場で「かぞく」の絆に気づかせてくれる秀作である。
この映画、いろんな見所があるが、なによりも大津皇子が祀られる二上山の夕焼けが美しい。心に溶け込む日本の原風景と言っていいだろう。
それから陽月華さん演じるヒロイン香奈の母親役、竹下景子さんの好演ぶりは必見に値する。実際、この映画で親子共演を果たした竹下さんの息子関口まなとさんが、「母がこんな役をやるのは初めてで、それだけに母も凄くおもしろがって張り切ってやってました」と語っていた。いままでのイメージを打ち破る夫役の小日向文世さんとの夫婦のやりとりは抱腹絶頂である。竹下景子ファンは見逃すと損する・・・。
初主役の陽月華さんの妖艶な表情、それとサブヒロインともいえる木下彩音さんのなんとも言えぬ可愛らしさときらめきも心に残った。
特筆しておくこともある。劇中に流れる笛の音だ。去る8月に亡くなった能楽笛方藤田流11世宗家藤田六郎兵衛さんの最後の舞台での吹奏の笛。病の中、命を削って奏でられた、鬼気迫る音色に鳥肌が立った。
いろんな意味で興味深く、楽しませてくれる中で、「かぞく」についてあらためて考えてしまう映画である。