「引っ越し:インポッシブル!?」引っ越し大名! 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
引っ越し:インポッシブル!?
土橋章宏脚本による時代劇はユニークな題材のものばかり。
参勤交代を面白可笑しく描いた『超高速!参勤交代』、凡作だったが日本初のマラソンを描いた『サムライマラソン』。
本作では、時代劇でお引っ越し!?
徳川の時代。要所要所の藩を守る為行われた大お引っ越し、“国替え”。
生涯に7度もの国替えを言い渡され、“引っ越し大名”と呼ばれた松平直矩。
これらはノンフィクションで実在の人物だが、本作はフィクションを交えモチーフに。
てっきりその直矩が指揮して大お引っ越しするのかと思ったら、別の総責任者が選ばれる。
その大任を託されたのが…
書庫番の片桐春之介。実在の人物ではなく、オリジナルのキャラ。
“書庫番”などと呼ばれているが、今で言うと引きこもりの漫画ヲタクと言った所。
蔵書にこもり、書物ばかり読み耽っている毎日。
人付き合いも苦手。他人とまともに喋れない。
付いたあだ名が、“かたつむり”。
そんな彼が大任に…いや、半ば押し付けられ、“引っ越し奉行”に。
大丈夫…?
大丈夫な訳無い!
姫路藩から豊後・日田(現在の大分県)へ。移動距離は600キロ!
藩士だけの単身赴任ではなく、家族含め総勢約1万人!
出来なければ、即切腹。
気弱なヲタクくんには卒倒しそう。さあ、どうする!?
無論、一人では出来ない。
まず、前任の引っ越し奉行に話を聞きに行くが、度重なる激務ですでに他界。娘の於蘭に最初は邪険にされるが、春之介の人柄に心を許し、父のノウハウで力を貸してくれる事に。
幼馴染みの武芸の達人、鷹村も協力。(イイ奴だけど、彼が断って無責任に適任者が居ると言ったからやるハメになったんだけどね…)
助けを借りて、いよいよ本格的に任に当たる。
自分も引っ越しした事あるので分かるが、とにかく大変!
全てを持って行く事は出来ない。お金もかかる。
それが藩もろともとなると、無理難題が山ほど。
一つ一つの難題を、知恵と工夫で策を練る。
運ぶものを減らす為、不要なものは捨てたり、お金に替えたり。
それは誰であろうと例外ナシ。
春之介も断腸の思いで蔵書の大半を火にくべる。
この時、嫌味な上役が高笑い。
…しかし、この上役に一休さんばりの方法でやり返す。痛快!
藩は国替え続きで困窮。
国替えには大金かかるが、とてもとてもそんなお金は無い。
勘定頭の助言で、足りない分は商家から借金。
勘定頭が協力してくれたのも、商家が費用を出してくれたのも、これまた春之介の人柄に惹かれて…。
今回の国替えは、石高が15万石から7万石に減封。
分かり易く言うと、大きな会社が小さな会社に。
つまり、全員を今まで通り雇ったままは無理。
この時代にもあったリストラ…。
独身者に対象を絞り、藩士から百姓へ、その非情な通達役も務める春之介。
激昂する者、悲観に暮れる者らが続出…。
心が痛い。が、春之介は約束する。
「元の15万石に加増が戻った時、必ずお迎えに上がり、再び召し抱えまする」
それは、いつの事になるのか…?
本当に叶うのか…?
しかし、春之介は決して…。
春之介という人物像に魅了される。
最初はダメ男くん。
悪戦苦闘しながらも、創意工夫。書物で得た知識で頭も良く、機転が利く。
内面も成長。
もう、かたつむりじゃない。
星野源が好演。
周りも個性的で、中でも、幼馴染みの鷹村役の高橋一生が豪腕な藩士役で新鮮だった。
時代劇は手掛けていたが、犬童一心監督にとっては初と言っていいくらいの本格コメディ。
そこに、ミュージカルやBL要素まで…!?
実は当初はさほど期待してもなく、序盤もイマイチであった。
無理難題の国替えの裏には陰険な上役の仕返しや定番の裏切り者、一応時代劇らしいチャンバラシーンもあるにはあるが、お供え程度。
策を凝らした国替え大作戦が始まってから面白くなってきた。それに加え、
国替えが成功しても、功績は残らない。手柄は悪い上役が横取り。
パワハラ、リストラ、断捨離…現代にも通じるテーマやヒント。
ヲタクくんがみるみる才を発揮して、女性とも出会って幸せを手に入れ、出世もして…と、ご都合主義ではあるが、それすら爽快。
ラストは念願叶う。
決して忘れなかった元藩士を迎えに行くが、戻る者も居れば、百姓として残る者も。その時の田の美しさ、空の青さ、彼らの笑顔が何と晴れ晴れ!
“全員”が集っての「お帰りさないませ」。
最後は意外や感動。
思ってた以上の良作好篇。
作品や春之介も含め、大義であった。