ジュリアン : 映画評論・批評
2019年1月8日更新
2019年1月25日より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
止まらない時限爆弾。DVを食い止められない司法と行政への監督の静かな抗議
映画の冒頭、約15分間におよぶ離婚調停場面の最初に、11歳の息子ジュリアン(トーマス・ジオリア)の陳述書が読み上げられる。「あの男が来るのが怖くて外で遊べない」。「あの男」とは、父親のアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)のこと。母のミリアム(レア・ドリュッケール)に暴力をふるい、実家に避難した家族を執拗に追って来るアントワーヌは、ジュリアンにとって脅威でしかない。その思いを彼は切々と陳述書にしたためるが、判事には届かない。おそらく失業中のミリアムは頼りない母親だと判断され、定職があるアントワーヌは社会性のある人間だとみなされたからだろう。アントワーヌは共同親権を認められ、ジュリアンは隔週の週末を父と過ごさねばならなくなる。母親に被害がおよばないように、迎えに来た父の車に渋々乗り込むジュリアン。その瞬間、時限爆弾のタイマーにスイッチが入る。
この映画は、DV(家庭内暴力)を題材にしたヒューマンドラマだが、それ以上に息詰まるサスペンスの要素が強い。離婚調停後に起こる出来事をジュリアンの視点から体験する私たちは、アントワーヌという爆弾がいつ破裂するか、ハラハラしながらみつめることになるからだ。ジュリアンとの週末の面会を利用し、ミリアムの電話番号や引っ越し先をつきとめようとするアントワーヌ。一方のジュリアンもできる限りの抵抗を試みる。母の電話番号を自分の携帯から消し、母を父の魔の手から遠ざけようとする。が、「愛する家族のことを知ろうとして何が悪い」と思うアントワーヌは、拒絶されればされるほど一方的な家族愛を強めていく。
時限爆弾の導火線は燃えるスピードを速め、恐怖に張りつめたドラマは戦慄のラストシーンに突入する。この場面が冒頭の離婚調停と対を成すように15分間に設定されているのは、決して偶然ではないだろう。始まりがあるから終わりがあり、原因があるから結果がある。沈黙するエンド・クレジットが、DVを食い止められない司法と行政に対するグザビエ・ルグラン監督の静かな抗議を物語る。
(矢崎由紀子)