「コーランと口論」読まれなかった小説 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
コーランと口論
どことなく若きスタローンを思い出す風貌の青年シナン。大学を卒業したばかりの彼はトロイ遺跡近くの故郷へ戻り、処女小説「野生の梨の木」を出版しようと奔走する。500部ほどでいいというから自己満足の賜物なのか、とにかく印刷予算2000リラにはあと少し・・・。
彼の父イドリスは小学校教師であり、週末には競馬に明け暮れ借金も多い。シナンからすれば聖職とは名ばかりのダメ親父に映っていたのだ。しかし、大学も出してもらってるし、尊敬はできないけど、完全には亀裂が生じてるほどでもない。祖父の畑に井戸を掘る作業も手伝ったりするのだ。井戸を掘って水を引こうというのがイドリスの夢。水さえ出れば貧しい農村に潤いを与えて暮らしが楽になるはずだという信念からだった。
ストーリーはかなり穏やかではあるけど、一旦議論が始まると激しく感情を揺さぶられる。とは言っても、ほとんどがシナンの若気の至りと言うべき人生経験の無さに腹を立てるといった具合。すでに小説家気取りの彼には全く共感はできないのだ。それでも家族に対する優しさも感じられ、父との関係をどう修復するのか?といった視点で展開を追う。
彼が世の中を知るのは町長の言葉や採砂工場のボスの言葉。そして思いっきり青春しているハティジェとの終わった恋やルザとのケンカ。しかし、地元の小説家スレイマンに対しては稚拙な文学論でくってかかるのだ。それは父親に対しても同じで、人生経験の無さを読み漁った書物でケンカを売ってるようなものだった。そして、家に金が無く、電気を止められた経験を経て・・・
山手にある畜産農家。ヤギのベルの音も心地よく響き、猟犬やジャッカルという動物に焦点を当てたかと思うと、アリにたかられる光景という珍しい映像も飛び出してくる。畑の中腹にある一本の木には意味ありげな朽ちたロープが掛けられていて、それが自殺を象徴するものだと感じるのですが、夢の中では死を連想するものもあった。しかし、導師二人の会話を聞くにつれ、神のいる国とそうでない国では犯罪と自殺者の数に違いがあるということだった。イスラム教もキリスト教とそれほどの相違はないこともわかるし、貧しい農村であっても神を信じる人々の社会には自殺者も少ないということだ。かなりミスリードする映像(特に赤ん坊がアリにたかられるカット)もあったけど、借金苦で自殺するという単純な物語ではなかった。
一番のミスリードは「読まれなかった小説」というタイトルだと思う。母親想いのシナンが丁寧にサインしてプレゼントした本は途中までしか読まれなかったし、妹も勉強で忙しいため未読だという。そして、案の定、書店に置いてもらった小説は全く売れずにいたが、父親だけはシナンのことをちゃんと理解していたのだ。3時間超の長尺もここにきて急展開。我慢して観た甲斐があったというもの。そしてその終盤にもミスリードする映像・・・シナンが首吊り自殺?!と思わせておいて、ただ井戸に降りただけというオマケつきだ。しかし長かった。商業ベースじゃないのだろうけど、ここまでして映画で文学を表現してもいいのだろうか。と感じた。
チャララ~、鼻からありんこ~♪
あんなエピソードを聞いて喜ぶ子どもはいないな、まったくよォ(呆れ)
でも乗り越えやすいダメ親像でいてくれるって、優しさですよね。
それに気づいたら何か元気出てきました。