「1987年韓国の歴史的事件を描いた傑作映画。こういう映画が作られることに羨ましさと妬ましさを覚えた。」1987、ある闘いの真実 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
1987年韓国の歴史的事件を描いた傑作映画。こういう映画が作られることに羨ましさと妬ましさを覚えた。
チャン・ジュナン 監督による2017年製作(129分/G)による韓国映画。
原題:1987: When the Day Comes、配給:ツイン、劇場公開日:2018年9月8日
韓国で1987 年に何があったか、恥ずかしながら全く知らなかったのを、突きつけられた思いがした。1987年の時点で韓国は軍事政権だったのをあらためて思い出した。そして、機動隊も登場する様な激しい学生運動が広がって民主化に繋がったことを、驚きを持って知ることができた。
主要な登場人物に関して、看守ハン・ビョンヨンは実在人物を組み合わせたキャラクター、彼の姪ヨニは架空人物、その他は実在の人物だそう。よくこんな映画作れたと、再度驚かされた。
不審死のソウル大学学生(パク・ジョンチョル)を解剖しようとするチェ・ファン検事(ハ・ジョンウ)に、露骨に政治的な圧力をかけてくる描写に、リアリティと迫力を感じた。
そして、学生拷問死をスクープとしようとする個々の新聞記者たちの正義感に基づく熱心な活動(第一報は当時は夕刊紙だった中央日報、その後が東亜日報のユン・サンサム記者等)に、メディアとしての健全性を感じた。トイレでの解剖医師への取材やチェ検事が重要な資料をわざと置き忘れる描写が印象に残った。
延世大学(ソウルの有名私大)の先輩イ・ハニョル(カン・ドンウォ)に憧れる女子大生のヨニ(キム・テリ)を主人公的に設定し、彼女の視点からイの学生運動、更に武装警察からの催涙弾の後頭部への被弾による彼の傷害(死線さまよった後に死亡)を描いたのが、お見事と思わされた。
ソウル大学生を拷問死させそれを隠蔽しようとした責任者、この映画での言わば悪役パク・チョウォン・内務部治安本部対共捜査所長を演じたキム・ユンソクの演技には、凄みを感じた。根っからの悪者という描き方ではなく、脱北者で共産主義者に自分以外の家族を皆殺しされた心情を語らせていたことに、好印象を抱いた。
最後、可愛くて政治に関心が無い様に見えたヨニ(キム・テリ)がついに市民運動に参画し、車上で民衆を前に、おずおずとだが拳を突き揚げるシーンに、美しさと力強さを感じ、胸が熱くなった。
日本の民主主義は米国占領軍に与えられたものだが、韓国民衆は、多くの犠牲の上にだが、自身の力でそれを勝ち取ったのかと、感慨と羨ましさ・妬ましさを覚えた。
傑作と思えた本映画は、韓国で興行収入5238万米ドルだとか、市場としても凄く・理想的と思わされた。
監督チャン・ジュナン、脚本キム・ギョンチャン、製作イ・ウジョン、チャン・ヨンファン、撮影キム・ウヒョン、編集ヤン・ジンモ、音楽キム・テソン。
出演
パク所長キム・ユンソク、チェ検事ハ・ジョンウ、ハン・ビョンヨンユ・ヘジン、ヨニキム・テリ、キム・ジョンナムソル・ギョング、チョ・ハンギョンパク・ヘスン、ユン・サンサムイ・ヒジュン、イ・ハニョルカン・ドンウォン、パク・ジョンチョルヨ・ジング。
そこから民衆自ら自由を手に入れたという自負、経験。これがあることが、この映画を筆頭に韓国映画の充実に色濃く反映していると思います。
暗黒時代を決して忘れない、という映画の役割の一つにもぴったりだし、「後期軍事政権の圧政、横暴」という "敵" もかっちりはまってますしね。
日本でも描けるはずだけど、指導者GHQがいるので、すっきりしない映画になっちゃうのかな
> 羨ましさと妬ましさ
全く同感です。
敗戦によって、必然的に民主主義が天から落ちてきた日本と、自らの手で民主主義を勝ち取った韓国。
終戦後も(解放されるはずが)分割され、かつ分割された同士で長く(今でもなお)戦争し続けなければならないという悲劇。かつ、そのため軍事政権が長く、かつ北に対する恐怖からくる民衆への圧政。