「豊饒な映像美と退屈な偶然は違う」A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
豊饒な映像美と退屈な偶然は違う
内容の薄い、一見芸術性を追求したような映画で、ほとんど中身が無い。
画角をテレビのようなフレームで区切ってあり、何かの視覚的効果を狙っているようだ。全編にわたってそうなっているので、監督の宣言と見て取れる。「この映画は絵画的に見てほしい」と言いたげに映る。
交通事故で死んでしまった男が主人公で、死体安置所で顔を確認に来た女性はたぶん結婚相手。死体だった男はむっくりと起き出し、布をかぶったままのゴーストになる。ここまでで映画の見せ場はほとんど出てしまった。
あとは時間軸がさかのぼって、開拓時代の家族が先住民族の襲撃を受けて全滅したときからそれを見つめていた幽霊とか、自分の目的や記憶をなくしてしまった幽霊とかのコンタクトがはさまり、余計に話がめんどくさくなっていく。別に話が複雑に絡み合う訳じゃなくて、ただ重さが増えただけの印象だ。
絵画的に見てほしいなら、映像美を追求した結果を見せてほしいところだが、どうもそんな努力をした形跡はない。例えば、自分の姿が生きている人に見えないことを知ったうえで、牛乳のグラスを持ち上げ床に落として割ったり、食器棚から皿をありったけ投げつけて散乱した床の散らかり方が、なんとも美しくない。
恋人が傷心のあまり、差し入れのタルトを爆食いしてやがてトイレに駆け込み吐き出すシーンも、撮り直し無しの一発テイクなのか、無意味に長すぎる。
不思議なのは、お隣さんの幽霊との会話シーンだ。「やあ、こんにちは」とか会話をする日本語の字幕が入るが、一切セリフは無い。これ、字幕なしの通常公開版はいったいどんな処理が成されたのだろうか?まさか日本語字幕版のみこのセリフが付け足されたなんてことは無いと思うが、もしそうだとしたら重大な改変だ。
とにかく、意識的にコントロールをして撮れた美しい映像を見せてくれるものだと期待した私は、なんともがっかりした。同じ低予算でも、もう少し工夫できる余地がいっぱいあったから。そのアラが目立つのが気に入らない。
2020.8.20