「愛と執着と幽霊と人間」A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
愛と執着と幽霊と人間
米国テキサス州の片田舎。
郊外の小さな一軒家に住む若い夫(ケイシー・アフレック)と妻(ルーニー・マーラ)。
夫は、まだ芽が出ていない音楽家。
ふたりが暮らす家では、突然大きな音がするなどの不可思議な現象が起きていたが、幸せな日々を送っていた。
そんなある日、夫が自宅前で自動車事故に遭い、他界してしまう・・・
といったところからはじまる物語。
その後、他界した夫が霊安所の冷たい寝台から白いシーツもろともムックと起き上がり、自宅へ戻ってくる。
彼自身、死んだことがわかっているのかいないか、それはわからないが、ただもう一度、愛しいひとと一緒にいたい、妻と心を肌を交わしたいと願っているが、それは妻に届かない・・・と展開していきます。
で、こういう展開だと、ははぁん、どこかで妻が気づいて、再び愛おしかった日々の記憶が蘇り・・・というようになるだろうなぁ、なんておもっていたけれど、そんなことにはならない。
もう、ほんとにそんな安易な展開にはならない。
なので、ストーリー的には、ここいらあたりでギブアップするひとも出るだろうし、それ以前に、ワンシーンワンシーンが長い(ひとによっては、なんと無駄な描写かと思うほど長い)ので、開始早々、5分くらいでギブアップするひとも多いことと思います。
けれども、そんな長い長いカットは、生きていることの証のようなカットで、普段、わたしたちがおこなっていることに他ならず、この長い長いカットがないと後半の演出が活きてこないのです。
映画はその後、妻はゴーストとなった夫に気づくこともなく、家を出ていきます。
夫は家から出ていけない。
日本的な幽霊だと、宙を飛んでいけばいいんじゃない、とも思うが、なにしろ霊安所から「歩いて」戻ったのだから、自動車に乗った妻についても行けないし、妻がどこへ行ったなどは見当もつかない。
そういうわけで、夫は家にいるしかなくなってしまい、愛する人が戻ってくるのをひたすら、ただひたすら待つだけになる・・・
と、まぁ、なんともはや、切ない物語。
けれど、時は、時間は、ゴーストの夫を取り残したままま過ぎ去っていく・・・
住む人は変わり、家自体も変わってしまう。
しかし、途中、夫のゴーストは別のゴーストの姿を家の中でみてしまう。
そのゴーストが言うには、「誰かを待っている。でも、それが誰かも忘れた」と。
その別のゴーストは、家が解体されるときに、一緒に消えてしまう・・・
このシーン、結構、驚きました。
けれど、考えるに、それは、「執着」が何かによって消し去られてしまったから。
ここに至って、この映画の主題が出てきます。
さて、その後・・・
ここからはストーリーは書きません。
ビックリするような展開です。
時間は、さらにさらに早く流れていきます。
前半の長い長いカットが活かされます。
長い長い時間の旅、長い長い自分の思いだけを閉じ込めた旅の終わりにゴーストが見つけるもの。
それは画面には明らかに示されませんが、それは妻からの愛と感謝と別れの言葉だったのでしょう。
その言葉は、観るひとが「感じて」くれればよいのだと、監督のデヴィッド・ロウリーは言っているのだ思いました。
監督と主演ふたりは『セインツ 約束の果て』でも組んでいますが、今回も滋味深い味を出しています。
とても好みの映画でした。
ただし、終盤、この映画の枠組みの(ような)観念について話すシーンがあるのですが、ちょっと、説明しすぎな感があったことを付け加えておきます。