劇場公開日 2019年4月19日

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「悲しく切ないが、絵本のような物語」幸福なラザロ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0悲しく切ないが、絵本のような物語

2019年4月22日
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様々なメッセージを含んだ絵本のようなストーリーだ。

ラザロは常に寄り添おうとしていたのではないだろうか。
タンクレディの「なぜ、仕事をさぼっているんだ?」という問いに対して、ラザロは「僕は働き者ですよ」と答える。
「じゃあ、なぜ、ここにいるのか?」という更なる問いに対して、ラザロは「あなたが望んだからですよ」と答える。
ラザロは、つねに人々に寄り添おうとしていたのだ。

しかし、ラザロは崖から落ちて村人や伯爵一家の前から姿を消す。
そして、長い長い年月を経て、再びラザロが皆の前に姿を現わす。
タンクレディに会いに行けなかった理由を伝えるために。

また、ラザロは皆に寄り添おうとするのだが、同時にタンクレディや村人たちの苦悩にも直面することになる。

結末は悲しい。
村人にとっては、小作でも昔の生活の方が豊かだったのではないか。
現代社会では搾取であっても、小作には、食べるものや住むところ、暖を取るのにも困ることはないし、人を欺いてまでも…、という良心の呵責もない。

ラザロは、銀行に赴いて、タンクレディに土地を返してもらえないかと懇願するが、銀行とは無関係の一般市民に、それもラザロが弱者だと分かった途端に攻撃に転じた一般市民に打ちのめされて、再び、この世界から姿を消してしまう。

狼は何を象徴しているのだろうか。
キリスト教にとって狼は異教徒を象徴しているらしいが、この映画のストーリーでは、現代社会に対するアンチテーゼを投げかける存在のように思えるし、聖人ラザロの魂を運ぶ役割を担った動物のようにも見える。

古来から続く小作は、現代社会では搾取だが、都市に集まって、人々は再び社会システムに搾取されているのではないか。
狼はラザロに、「ほらね、残念だけど、君は、今では必要とされてなんかなかったんだよ」と、悲しい目で語りかけていたようにも思える。
そして、狼はラザロの魂とともに山に帰って行く。

僕は、古い階級システムの小作といった搾取に決して賛成はしない。
ただ、新しい社会システムは、民主主義や自由主義の美徳の名の下に、置き去りにされて、見向きもされない人々や、荒れた田園・自然を作り出してしまったことも事実だと思う。
この映画は、少し立ち止まって、よく考えてみませんかというメッセージを伝えているような気がする。
ラザロが、まだ寄り添ってくれてるうちに…と。

ワンコ