「ドラマに深みを持たせる宗教や奇跡という概念」幸福なラザロ MPさんの映画レビュー(感想・評価)
ドラマに深みを持たせる宗教や奇跡という概念
太陽と大地の恵みを受けて荒れた大地に作物を植え、僅かな収穫を言い値で領主に献上する農民たち。日々の食料にも事欠き、農場を離れていく若者たちもいるが、そんな土に根ざした生活と、民主主義が導入されて以降のイタリアの近代史を、年を取ることなく跨いでいく聖人、ラザロ。彼の目を通してすべてが描かれる。激変する価値観に踊らされていく人々と、何も望まないラザロを対比させることで、人間の醜い素顔があからさまに浮かび上がるという手法だ。これは、宗教や奇跡という概念がドラマに深みをもたらすイタリア映画伝統の技。現実には起こり得ない現象を用いて、描くテーマに普遍性をもたらす。映画にのみ許された特権が、久々に巧く行使された例だ。
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