劇場公開日 2019年9月6日

  • 予告編を見る

「変わるものと変わらないもの」帰れない二人 andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0変わるものと変わらないもの

2019年10月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2001年から2018年まで。時と場所を移ろわせ、中国の変化と共に、男女の愛も移ろう。
2001年は大同。やくざ者のビンとその恋人チャオの羽振りは良いが、やくざの世界のきな臭さと、石炭を産業とする街の衰退がもの悲しさを誘う。(ダンスミュージックが”Y.M.C.A”と”CHA-CHA-CHA”なのもやけに過ぎた時代を感じる)。英題 “Ash is Purest White” は、火山でヒロイン・チャオが語る「火山灰は高熱だから白い」から取られたものだろう。
チンピラに襲われた恋人・ビンを救うべく拳銃を放ち収監されるチャオ、そこからふたりは出会ったり別れたりを繰り返す。
2006年、市街地がダムの底に沈む運命にある奉節での再会と別れ。そこから新疆ウイグル自治区までも経て2017年、舞台は大同に戻る。
女の強さ、男の見栄。出所したチャオが有り金を盗まれても強かに金を手に入れ、会いたがらないビンと再会する様。過去の羽振りの良さを忘れられず、捨てられたという感情に囚われるビン。ふたりに共通の思いはあるのは分かる。お互いもそれを感じているはずだが、結局は通じ合わない。
あまりに大きな中国を、時間的、場所的に移ろい、驚く程の変化と変わらないものを見せゆく様。2017年の大同は新しいものと古いものが混在し、まるでふたりの関係のようだ。弱い男と強い女、だがしかしそれが反転するかのような終わり。
出会っては別れを繰り返す男女のモチーフは普遍的なものだ。その普遍の物語に、情の上に中国の2000年代史というか、変化を載せているところ、しかもそれが不自然でないところに素晴らしさを感じた。チャオ・タオの変化が特に素晴らしい。年代を経た表情の表現と、変わらない芯の表現が極めて巧みだ。
そして、社会からはぐれてしまった人間の生き様。それは美しくもなく、強くもなく、絆も脆い。結局最後まで残ったのが男女の情であり、それを終わらせるとき、初めて自身と向き合うのだ。

andhyphen