「失われる故郷」帰れない二人 ローチさんの映画レビュー(感想・評価)
失われる故郷
結構この邦題は好きだ。なぜ帰れないのか、それは急激な経済発展でわずか数年で故郷は激変し、変えるべき故郷を失ったからだ。失われた故郷への寂寥感を描いた中国映画が近年目立ってきた。『迫りくる嵐』やアニメ映画『詩季織々』など、急速な発展で富を享受する人々がいる一方、取り残されている人々も確実に増えているのだろう。原題の「江湖儿女」の江湖は川と湖の併称で、転じて世間という意味があるらしいが、それとは別に武侠小説などに登場する特殊な人々の集まりを指すこともあるそうだ。本作は、故郷を失う裏社会の人間の話なので、その武侠小説的な意味合いで使われていると思われる。歴史のうねりの中で消えていく裏社会の濃密な人間関係が描かれている点で、かつての日本のヤクザ映画や米国の西部劇のような趣のある。しかし、それでいて、長い月日をすれ違う切ないラブストーリーでもある。チャオ・タオは相変わらず素晴らしい女優だ。薄幸そうな表情が本当によく似合う役者だ。
コメントする