「何の映画?」帰れない二人 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
何の映画?
英題の「灰は純白」の意味は良く分からない。
最初の方で、主人公の女が唐突に言う台詞を元にしているが、火山灰も石炭灰も真っ白なはずはなく、焼き尽くされることで純化するという精神的な意味だろう。
エンディングに出てきた言葉なら、「灰 = 主人公の女(あるいは、2人の関係)」なのかな、という気もするのだが・・・。
原題の「江湖儿女」は、ググって出てくる「川や湖の子どもたち」ではなく、「“世間(または、香具師)”+“若い男女”」らしいので納得。
邦題は「帰れない」だが、事件を起こしたからといって、帰れないわけではなく、帰らないだけに思える。ミスリードと言ってもいいのではないか。この邦題に惹かれて観に行った自分としては、騙されたような気分だ。「帰らない二人」が正しい。
ラブストーリーとは言えない。2人の間の接触や会話は限られており、中身が希薄だ。“片思い”と言うなら当たっているが。
“現代中国の移り変わり”を描いたとも言えないのではないか。社会のあり方を直接に描写するのではなく、単にモノやヒット曲、ダム工事で間接的に語らせているだけで、「そんな 時代も あったねと・・・」レベルの内容だ。衰退しつつある石炭採掘の町を描いた2001年はともかくとして、2006年、そしてなぜか一気に飛んで2017年においては、特に“時代”は感じない。
結局、あえて言えば、主人公の女のロードムービー。だが、女の内面の軌跡を一貫して描くわけではない。
描写を尽くし、台詞を尽くして語る映画ではなく、「回る 回るよ 時代は回る」といった“ムード”で押し切ってしまう情緒的作品だった。
(なお、単にあちこち放浪しているだけだ・・・と思っていたが、公式サイトを見て、石炭、水力、石油の「電力の町の巡礼」であり、意味もなくウルムチが出てくる謎が解けた。)
ただ、面白かった映画でも、見終わるとほとんど覚えていないことが多いのに、この映画の一つ一つのシーンが、奇妙に“しっとり”として忘れがたいというのは、この監督の見せ方のマジックなのだろうか?
乾燥した大同の町と、水没する奉節の町との、“湿度”のコントラストの往復は印象的だった。