「群れる媚びる流される」ドッグマン ミカさんの映画レビュー(感想・評価)
群れる媚びる流される
何故、マルチェロがシモーネをあそこまで助け庇うのか。マルチェロはシモーネに何か特別な弱みを握られているのか、あるいはシモーネに恩があるのか。途中まではそう思わずにいられないほどマルチェロのシモーネへの忠誠心が異様に映りました。これは虐げられた人間がブチ切れる復讐話かと。
ところが、後半マルチェロがシモーネをゲージに閉じこめた時に私の考えは変わりました。マルチェロは、シモーネを殺す気などさらさらなく、シモーネを落ち着かせもっと自分を慕って仲良くして欲しいだけなのではないか。例えば、マルチェロと犬みたいに。
そして、シモーネの遺体を表に出し見せびらかそうとしたのは、周囲の人間に認められてもっと仲良くなりたかっただけなのではないか。
実はマルチェロにとっても、シモーネは友人ではありませんでした。友人の遺体を誇らしげに見せびらかす人間なんていません。シモーネは、マルチェロを利用はしていたけれども必要ともしていた数少ない人間で、犬以外にマルチェロの承認欲求を満たしてくれる相手でした。つまり、マルチェロは非常に孤独だったわけです。
マルチェロは、孤独を避ける為「群れる、媚びる、流される」人間の悲しい性の象徴なのではないでしょうか。その習性が行き過ぎて小さな諍いになったり、極端になると国家レベルの大きな悲劇を生む。これは、歴史が証明しています。
個人主義のヨーロッパ諸国の中でもイタリアは未だに家族や地域との関係が強い国ですし、日本は現代になっても村社会の文化が残っていて相手の顔色を伺う民族なので、今作は日本人にこそ共感と理解ができるのではないでしょうか。
こんばんは。おすすめいただいたので早速見させていただきました。とても楽しく見れました。そうですね、マルチェロが近所の人たちにシモーネの遺体を見せようとする姿はご主人様に獲物を見せようとする猟犬のようにも思えてしまいました。孤独ゆえに群れる、媚びる、流される、人間の悲しい性の象徴、まさにおっしゃる通りですね。