ピータールー マンチェスターの悲劇のレビュー・感想・評価
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一度認めれば要求はエスカレートする
映画「ピータールー マンチェスターの悲劇」
(マイク・リー監督)から。
世界各国が「新型コロナ・ウィルス感染拡大防止対応」で
いろいろな策を打ち出している中で作品鑑賞したので、
19世紀初頭のナポレオン戦争後、
深刻化する貧困問題の改善を訴えて立ち上がった英国民と
今後想定される「コロナ不況」で溢れる失業者の叫びが重なった。
そんな英国民の感情を知ってか知らずか、国の役人(判事?)は、
対応策・解決策を出すのだが、こんな台詞が飛び出した。
「労働者は胃袋でものを考える」と切り出した後、
「工場主に週給を1シリング上げさせれば、彼らの空腹は癒され、
運動も終わる」と。
今、各国が国民の不平不満から起きる暴徒を回避するために、
「一律~円配給」策を採用した意図がわかった気がする。(汗)
ただ作品の中では、この策に反対する判事がいた。
「一度認めれば要求はエスカレートする」が理由だった。
まさしく、今回の「コロナ騒動」で同じことが言えそうだ。
「さざなみ(小波)はやがて流れとなり、波となる。
荒れ狂う大波となり、大地に打ち寄せる」
「コロナ波」は、どこまで大きな波となってくるのか、
こればかりは、誰もが想像できない気がする。
「『暴徒』は『恐怖』で抑える」ことがないように、
社会システムの「改革」が必要なのかもしれないな。
この世界ついての、神への無言の抗議
ランスとの戦争はオランダ・ウォータールー(ワーテルロー)の戦いにより、英軍の勝利となった。
その戦いに従事したひとりの若いラッパ兵。
彼が故郷の英国マンチェスターに戻ってみると、世間はひどい大不況だった。
戦争の痛みもあってか、かのラッパ兵はひと言も口を利かず、顔をゆがめたままだった・・・
というところから始まる物語で、当時の大不況真っ只中のマンチェスターには、普通選挙権を勝ち取り、地元民から議員を送り出し、いまよりも少しいい暮らしをしたいという民衆の願いが溢れていた。
そんな様子を、マイク・リー監督は民衆たちの集会での演説を通じて描いていきます。
そう、ほとんど演説ばかりの映画。
なので、こんなの映画じゃないんじゃない、なんていう観客もいるかもしれない。
しかし、当時の様子を描くのに監督が用いたこの手法は悪くない。
たぶん正しい。
話すことで、様々な人の心に訴えて、それを静かな行動に移す。
互いに理解し、問題点を共有し、よりよき社会(というか、自分たちの生活だ)を得るために、どのようにするべきか・・・
なので、会合の席、家族間で交わされる会話に、観客は耳目をそばだてる。
普段の会話は、かなり訛りが強く聞き取りづらいけれど、演説になると、訛りはあったとしても聞き取れる。
なるほど。
そのような民衆たち(力を持たない人々)に対して、権力側がどうだったのか。
スパイを送り、些細な罪で流罪にしている。
これでも、まだ憲法に基づく民主主義国家(投票権は一部のものにしかなかった)というわけだ。
で、会話会話の映画が終盤、一気に動きだす。
各地から集まった何千という人々。
正装し、女性も子供も連れての穏やかな行進と集会。
弁士ヘンリー・ハント(ロリー・キニア)が演説を始めた瞬間、地元の治安判事たちは騒乱罪を適用し、彼を逮捕させるとともに、穏やかな民衆たちに武装した軍隊の出動を命じる。
その後は修羅場だ。
まさに、修羅。
人間が通った跡ではないもの(そう、死体やなんやかやだ)が残る。
冒頭から登場していた若いラッパ兵は、一言も発せず(そう、映画全編を通じてひと言も発していない)、切り殺されてしまう。
オランダのウォータールー(ワーテルロー)で生き残った兵士が、ピータールーで斃れるわけである。
祖国のために戦った若き兵士は、なにも言わずに、祖国の権力により切り殺されてしまう。
ラストシーンは彼の埋葬シーン。
神父が彼のために「アーメン」と祈り、家族にも祈るように促すが、誰ひとり祈りの言葉は発しない。
この国には、神などいないと無言で抗議している。
それが200年前の英国だが、さて、それから世界は変わっただろうか・・・
そんな思いでつくったマイク・リー監督の力作でした。
不勉強だったので…
かろうじて、マンチェスターで虐殺があったらしい、程度の知識しか持っておらず、大変勉強になりました。
権力者や資本家と労働者の対立構図が分かりやすく描かれていますが、人物像がかなりステレオタイプです。
登場人物が多く、視点がコロコロ変わるため、誰が何を考えているのかわかりづらいことも難点でした。
(個人識別が多少不完全でも、ストーリー上はあまり困らないのですが)
広場での混乱が収まった時点で終わるので、事件がこの後どのように扱われたのかなど、気になる部分が残りました。
また、公式には広場での死者は3名、負傷者は15名となっていますが、明らかにそれ以上の被害が出ています。
(後日に亡くなった人がいたり、資料によって数が異なったりするようです)
単に、英国での民主主義の始まりというだけでなく、その後のジャーナリズムのあり方にも影響を与えていますし、当時の産業を支えた力織機やグーテンベルク印刷機なども登場します。
150分と長めの作品ですが、見どころも多いと思います。不思議と、そう長くは感じませんでした。
(これを言うたら怒られそうですが、家でWikipediaを引きながら観たかったです)
ジワる面白さ、ってこういう事だと思う
開始30分くらいで気付いた脚本の良さ。
特に一人ひとりの台詞が良い。長めの台詞が多いわりに、話すと生き生きしてくる人間性がなんというか「ジワる」。ジワる面白さ、ってこういう事なんじゃなかろうか。そう感激しながら2時間超えの映画の旅は、結構あっという間でした。
ほんの少しネタバレを言えば、無血革命に触れて称賛していた台詞が、私的には特に好印象でした。
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