劇場公開日 2020年1月17日

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「アドベンチャー娯楽作品として良作だが、「実話」ではない」イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アドベンチャー娯楽作品として良作だが、「実話」ではない

2020年1月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

まあもう既にAmazon Primeで配信されているんだが、なぜこれを劇場公開したかといえば、どう考えてもこの映画はスクリーン向きだからだろう。元々はIMAXシアターで1週間限定公開のつもりだったらしいし(結局IMAXとAmazonで期間が折り合わなくて潰えたけど)。
この映画、ポスターで「実話」と断言しているし、確かにエディ・レッドメイン演じるジェームズ・グレーシャーは実在の人物である。しかし、ジェームズ・グレーシャーと一緒に気球に乗ったのはヘンリー・コックスウェル、男性。つまりフェリシティ・ジョーンズ演じるアメリア・レンは架空の人物である(実在の気球乗り、ソフィー・ブランシャールがモデルであろう)。
物語としては、頭でっかち(かつ夢みがち)なエディ・レッドメイン=ジェームズが、奔放に(見える)実務型気球乗りのフェリシティ・ジョーンズ=アメリアと前人未到の高度に気球で挑む、という大筋。気球での冒険と、彼らの過去が交互に描写される。
この映画、エディ・レッドメインは完全にヒロインである。夢みがち、理論は凄いが経験がないため、計器に拘って防寒コート持ってこないとか。お前はアホか。基本彼は、冒険に関しては本当にラスト近くまで役に立たない。気絶しちゃうし。
しかも、発することばとか父とのやり取りとか、全部が全部乙女ちっくが入っている(良い意味で)。
夢みがち(実際途中で気絶する)なエディ・レッドメインを護るのは過去を背負った気球乗り、滅法強いフェリシティ・ジョーンズである。「強いけどふとした瞬間に弱さを見せる」女が似合う役者ランキングがあれば断トツ1位(私認定)のフェリシティ・ジョーンズ、半端ない。この映画におけるアクションは全て彼女がもっていく。そして彼女が背負った過去から「生きる」ことをとにかく第一にする。その辺の作り込みは非常に巧みだ。
あとはこの映画をスクリーンで観るべき理由、圧倒的な空の描写だろう。これはテレビで観るより巻き込まれ感が絶対に強い。嵐、雲、光輪、空。技術すごいな、と単純に感嘆。
ただ。
娯楽アドベンチャーとしてよくできている(なんで手袋しないのかしらとは思ったが)だけに「娯楽として語り継ぐのではなく」の台詞にちょっと苦笑してしまう。実際の話を娯楽物語に換骨奪胎しといて(それが悪いとは思わない)、それ言うのか...。いや、物語としては大事な台詞なんだけど。
殆どのひとは偶然この物語に行きあう訳で、そうするとこれを実話と思う可能性もあるわけだ。ジェームズ・グレーシャーが気球に乗って観測を行ったのは事実だが、そもそもそれは彼が53歳のときなので、エディ・レッドメインをキャスティングする時点でフィクション・エンタテインメントなのである。そしてまるごとなかったことになって、Special Thanks にしか名前が出てこないヘンリー・コックスウェルに思いを馳せてしまうわけだ。
フィクションとして再構成したときに、この物語の作り方はとても正しい。フェリシティ・ジョーンズの魅力は存分に活かされ、エディ・レッドメインはそのヒロイン力を遺憾なく発揮する。
だからGAGAさんはこの作品を「奇跡の実話」として宣伝するのはやめてほしい。「実話にインスパイアされ、現代の人びとが楽しめるようにしたアドベンチャー映画」として良作なのだから。そもそも映画内では "Inspired" なんだから...。
ちなみに、鳩を乗せたのは実際は伝書用ではない...。

andhyphen