「歌う彼方に」ジュディ 虹の彼方に 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
歌う彼方に
『オズの魔法使』を見た人なら誰もがドロシーに魅了された筈。
可愛くて、演技も上手くて、何よりその聞き惚れる歌声。
そんな彼女が家に帰った後(=実生活で)、悲劇的な人生を送ろうとは誰が予想出来ただろうか。
ハリウッドの子役スターの代名詞。
子役は大成しない。
華やかなショービジネスの裏で…。
そこから返り咲く。
光も陰も含めて、ハリウッドを代表する“伝説”。
ジュディ・ガーランド。
1968年、死の半年前に焦点を当てた最期の日々。
子役スターとして人気を博した後、長らく不遇だったというのは勿論知っていた。
ショービジネス界からそっぽ向かれ、過去の栄光、幾度の結婚と離婚、夫や子供たちとの複雑な関係、薬物中毒、アルコール依存、精神不安定、果ては自殺未遂…。
それらを何度も繰り返す。
知っていたつもりだったが、改めて知ると、書き並べるだけでも胸が痛いほど。
何が彼女をそうさせた…?
こういう場合、自分自身の弱さもある。
今まさしく日本のエンタメ業界で、売れっ子人気俳優の薬物使用逮捕が激震渦中。(嗚呼、この人もか…とショックだった)
何故何人も何人も、容易く道を外すのか。
業界を知らぬ凡人からすれば理解に苦しむが、業界がその人に与えるプレッシャーとは尋常じゃないのかもしれない。
ジュディの場合、子役時代からのプレッシャー。
勿論演技して歌って、光り輝いていたい。
でもその一方、普通の女の子としていたい。ポテトやハンバーガーを好きなだけ食べて、プールに飛び込んで、同い年の女の子と遊んで、男の子に恋して…。
そんな事は一切許されない! 何故なら、“ジュディ・ガーランド”は“商品”だから。
劇中にも出てきたが、敢えて名は伏せるが、超大物プロデューサーは一応ジュディに選択させる。スターとして光り輝くか、平凡でそれなりに幸せだけど行く行くは惨めな人生を送るか。
これはもう誘導尋問だ。商品になれ、と言ってるようなものだ。今ならパワハラレベル。(劇中では触れられていないが、Wikipediaで調べたら、太り易い体質のジュディを痩せ型にする為、ダイエットとして薬を服用させていたとか。ジュディの薬物中毒の要因はここから…?)
目指す者、憧れる者にとっては夢の世界、ハリウッド。
全体が無論そうじゃない。でも、ある時代やある一部では…。
ハリウッドという箱の中で無情にも翼を割かれた小鳥。
飛べず、価値ナシとなった商品は捨てられる。
ハリウッドに造られ、ハリウッドに消費され、ジュディは身も心もボロボロに…。
『オズの魔法使』の再現セットや娘ライザ・ミネリの登場などは映画ファンとしてお楽しみ。
が、一本の作品としてはちとステレオタイプ。
勿論胸に訴えるものあるが、作品のインパクトがジュディ本人の人生に完全敗北。ま、仕方ないけど。
でも、それを補ったのが…
オスカーでは実在の人物を演じると受賞し易い。
だから当初本作も、そんなジンクスの一つだと思っていた。
今は心底謝ります。
レニー・ゼルウィガー、キャリアベスト級の大熱演!
訛りも歌も完コピ。すでに『シカゴ』で美声を聞かせていたとは言え、吹替ナシの歌声とパフォーマンスはやはり圧巻!
これらは話題と見せ場の一つで、圧倒的だが、個人的には孤独で儚い繊細な内面演技こそ胸に迫った。
一番描きたかったのはここだと感じた。
ジュディは名女優だが、レニーも演技派。ステージ上のジュディ等しく、レニーの土壇場。その一挙一動から目が離せない。
こちらも話題になっているが、レニーがジュディを演じる事に数奇なものを感じた。
ご存知のようにレニーは、90年代後半から2000年代前半にかけて、飛ぶ鳥を落とす快進撃。
キュートな魅力で男女問わず魅了し、演技も上手く、どんな役もジャンルもこなせる。
『ブリジット・ジョーンズの日記』『シカゴ』『コールドマウンテン』で3年連続でオスカーにノミネートされ、『コールドマウンテン』で受賞。
誰もが羨む大絶好調!…だった。
いつの頃からか彼女を見なくなり…。
一生安定と思われていたキャリアがまさかのスランプに。
時々表舞台に出る時は、決まってゴシップ。
かつてのキュートな容姿の面影無く…。顔面崩壊とか見るも無残とか、マスゴミやSNS上のクソどもから誹謗中傷…。
個人的には2016年の『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』で久し振りに好演魅せて良かったが、それほど話題にもならず、興行的にも…。
起死回生に失敗、もうレニーも終わり…と思われた時、本作。
レニー、華麗なるカムバック! 2度目のオスカーというオマケまで付いて。
再びレニーのキャリアが安定かどうかはまだ分からないが、そんな浮き沈みのキャリアが不思議とジュディとリンク。
ジュディも不遇の時代を経て、カムバック。
受賞は逃したものの、『スタア誕生』『ニュールンベルグ裁判』で2度オスカーにノミネートされ、子役から名女優に。
仕事上では返り咲いたと言っていい。
が、私生活では…。
荒れた生活が続く。
依然アルコールに溺れ、時折仕事にも支障をきたし、生活も困窮。
そこで引き受けたロンドン公演。
こんな状態で歌えるのか…?
しかし、いざステージに立つと、その歌声で観客を魅了する。
やはり、プロなのだ。ショービジネス界の明暗をこの身で体験してきたプロなのだ。
孤独や不安に身を襲われる事がしばしば。
私は、誰からも愛されていないの…?
よく、愛されるより愛したいと言う。
が、ジュディは愛を欲していたのだ。
異論はあるかもしれない。でも彼女は、子役の頃から愛を欲していたのだ。
“ジュディ・ガーランド”という世界中で売り出される“商品”としてではなく、一人の人間として。
ゲイが“有罪”だった時代のイギリス、そんな偏見無く、ファンのゲイカップルとの交流は心温まる。あの時のジュディの顔は、心底の素と癒しだった事だろう。
クライマックス、ジュディは歌う。私からの愛を込めて。
ラストの曲は言わずと知れた“虹の彼方に”。
が、歌えない。
そんな時、客席から…。
愛し、愛され、愛され、愛し…。
その愛に応えて、歌い続ける。
歌う彼方に。
余談。
2020年9月13日。今日で、このサイトに登録してレビューを書き始めて、ちょうど丸10年となりました。
まさかこんなにも長く続くとは…! 自分でもびっくりです。
始めて書いたレビューは、『悪人』。今のダラダラ長いだけのレビューとは違って、簡潔に短く、それでもどう書くか頭を悩ましながら書いたのを今でも覚えています。
レビューを書くようになって良かったと思ってます。以前はただボ~ッと見て、ああ面白かったとか、ああつまらなかったとか、時にはすぐ忘れ覚えていない事もよくありましたが、こうやって文章にする事で、記録にもなるし、映画を見て自分が何を感じ、何を考えたか、より深く映画を見るも事が出来ました。それはつまり、より映画を見る楽しみが増えたという事にもなりました。
さてさて、これからもコツコツ頑張ってレビューを書いていこうかなと。
取り敢えず今の目標は、再見真っ只中の007シリーズ全作レビュー制覇と、来年の11年と(笑)、レビュー本数3000本です。
それから、いつも共感やコメントして下さる皆様、ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
お返事ありがとうございました!
せっかくの「日記レビュー」ですが、僕は文中に他サイトのURLを脚注として書いてしまって、10本近くが削除されたばっかりです。心が折れているところなんですよ(涙)
運営に問合せたところ規則違反だったそうで発覚次第削除されるそうです。
気をつけて下さいね。
😉ではまた
きりん
近大さん、レビュー10周年おめでとうございます!
まるで中味の薄い俺の文とは違い、いつも作品内容を思い出させていただいてます。
熱く語っているかのような雰囲気は真似できません・・・
こんにちは
いつも、レビュー拝読しています。近代さんのレビューは内容が詳細で、とても重宝しています。
レビュー本数3000本!に達したら、本を出版されたらどうですか?(真面目に売れると思います。) 私、即、購入しますよ。
では、又。
丸10年おめでとうございます㊗️
私も5年くらいですが、1000本レビューも達していない。
この年数、このレビュー数いかに大変か実感します💦
近大さんやBacchusさんなどの重鎮(褒め)が居たからこそ
色々なレビュアーさんも増えて楽しめるサイトになったと思います。
本日にありがとうございました。
これからも宜しくお願いします🙇♂️