「仏教西部劇」ゴールデン・リバー everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
仏教西部劇
小説の映画化だけあって、とても文学的な西部劇でした。
EliとCharlie Sistersという殺し屋兄弟が「提督」から引き受けた依頼は、何かを盗んだとされるWarmの殺害。Warmの追跡を探偵Morrisが先に開始しているとのことで、とりあえずMorrisと落ち合おうとします。
単なる追跡劇ではありませんでした。
Sisters兄弟の生い立ちと関係性は、喧嘩しながらも助け合う道中のきめ細かな人物描写から伝わります。原題通り主役はこの兄弟であり、明らかになるWarmの正体や、Warmの理想郷に感化されるMorrisは、生業を変えるか変えないかで揉めていた兄弟を大きく変える最大のきっかけという感じです。邦題やポスターは金塊の奪い合いでも想像させるようで、イメージが異なります。
確かに一攫千金を狙うのですが、それにより得たいものは何なのかと問われます。Eliは愛する人との安定した平和な暮らし、Warmはユートピアの実現、Morrisは真の自由でしょうか。Charlieは豪遊しか思いつかなかったようですが、好かない奴だったMorrisとも打ち解けます。狙って殺し、狙われてまた殺す、その繰り返しで生きてきた兄弟も、殺し屋とターゲットで構成される4人の不思議な共同生活に、居心地の良さを見い出しているようでした。
MorrisとWarmも、元々は探偵と調査対象ですが、共同経営者となり友情を育みます。Warmは特にMorrisを気に入っているように見えました。生き延びるためとは言え、自分の命を狙って来た探偵や殺し屋を受け入れてしまうという信じ難いほどの懐の深さですが、壮大で立派な理想を掲げるだけはある人物です。
MorrisもSisters兄弟同様に父親への反発が仕事に影響しているという共通点がありました。
短絡的なCharlieの行動によって迎えるこの共同体の結末はまたもや意外な悲劇でした。手っ取り早く富を得たいという沸騰した欲望が不可逆的な破滅をもたらします。情に厚く優しい兄Eliは、弟を死守するために、嫌気がさしていた殺しを頑張らなければならなくなり、一方殺し屋として名を上げたかったCharlieは片腕を失い意気消沈してしまいます。
とにかくお兄ちゃんの愛情深さが際立っていました。ぶち壊す弟と立て直す兄。最初は悪ふざけで泣きマネをしていたCharlieが、最後は本当に泣いてしまう。そんな時こそしっかり弟を支えて守らなければと心に誓ったでしょう。いつの間にか馬に名前を付けていたり、慣れない歯磨きでMorrisのお手本を見つめたりと、何とも良い感じでした。
長旅により不本意な方向へ変わらなければならなくなった兄弟。
そして追っ手もいずれは途絶える…。
諸行無常の果てに着いた先は出発点。
そこには変わらないものがありました。
個性派俳優を集めた奥深いドラマでした。
機会があればもう一度観たいです。
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(原題は単に「シスターズ兄弟」という意味ですよ…。本作全体に散らばる皮肉っぽいジョークのひとつです。女々しいような名字ですが、実際は、泣く子も黙る凄腕殺し屋兄弟な訳です。犯罪組織?のボスが、The Commodoreと呼ばれているのと同類のテイストかと。)