「肩甲骨とユダヤ人迫害」サスペリア kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
肩甲骨とユダヤ人迫害
何だかスピルバーグの映画を観てる錯覚をしてしまいそうになる前半部分。どうもハイジャック事件やユダヤ人医師の過去の想いによって『ミュンヘン』や『シンドラーのリスト』を思い出してしまったみたいです。確かにダリオ・アルジェント版のオリジナルでは1977年にドイツに起こっていた社会背景が全く描かれていなかった(多分、ハイジャック事件は公開後だが)。おかげで、予習のために見たアルジェント版がとても薄っぺらい作品に感じてしまった。
バーダー・マインホフやドイツ赤軍(RAF)、パレスチナのハイジャック犯が・・・という話題にパトリシア(クロエ・グレース・モレッツだった。気づかなかったよ)が興味をもって地下活動してるなんて噂も飛び交っていた。魔女マザー・マルコスが魔女の選挙によって選ばれ、落選したマダム・ブラン(ティルダ・スウィントン)は振付師として生徒たちを教育していた。これだけでもオリジナルから全く外れたストーリー展開。たしかに学校内での登場人物の名前はほぼ同じで、パット、オルガ、サラはみんな殺され、魔女たちの生贄にされていたが、この映画では死んでるのか死んでないのかよくわからない。謎といえば、オリジナルにおいても、明らかに謎の男の手が最初の殺戮に関わっていた。
改変といっても、これはこれで楽しめたという内容。ナチによるユダヤ人迫害のテーマがメインともとれるし、魔女狩りとも絡めてあるところが興味深い。さらに言えば、主人公スージーの存在自体が普通の少女ではなく、間違って選ばれた魔女を粛清するために派遣された聖母マリアのような存在のように描かれていた。選挙の際、「多数決ね!」という言葉もずっと引っかかっていたのですが、マザーマルコスが選ばれたのもヒトラーが選ばれたのも多数決の選挙なのだ。ついでに言えばアベちゃんだって・・・
社会情勢や反ナチの伏線は大好物ではありますが、最後には全部「記憶消しちゃえ!」みたいな方向に持っていったのは反則技のような気がします。エログロな終盤の儀式、パカっと胸を開いたスージーちゃん、記憶に留めておきたいのにしばらくすると術が効いて、忘れちゃうのかも。ちなみにハート(AJ)のエピソードは好き。収容所で殺されたアンケがオリジナル版のスージー、ジェシカ・ハーパーであることも感慨深い。「オリジナルを貶したリメイク」といった意見も多いのですが、高校生当時映画館で観た者から言わせてもらえば、アルジェント版は目がチカチカしただけで普通に駄作だと思いましたよ・・・全然怖くなかったし。なぜ今オリジナルが時を超えてそこまで持ち上げられるのかがわからない。