「生命」サスペリア ミカさんの映画レビュー(感想・評価)
生命
サスペリアのリメイク見たさというより、グァダニーノの新作ということで劇場まで足を運びました。非常に難解だったので、町山さんの解説を聞いたりしながら鑑賞後数日経った今も考え続けています。以下、全くの私見です。
「私達が絶対やらないのは、明るく美しい踊りだ」マダム・ブランのこのセリフ、常に明るさと美しさを無言下で求められる女性性に対する反旗の様に聞こえました。同時に「女性の事は女性が決めるぞ」という自立の様にも聞こえました。過去、魔女としてスケープゴートにされた女性達の声を代弁しているようです。
組織として腐敗した舞踏団のマルコスは、歳をとり若者を容れ物にして生き延びる全権力者の象徴です。だからこそ、こんなにも醜く描かれているのでしょう。この腐敗した権力は架空の話でも過去の話でもなく、現代の話なのです。脈々と続いてきた魔女のコミュニティを見ていると、実はカルトでも何でもなく人間社会そのものを映し出している事に気がつきます。権力を持つ側は生き延びて持たざる側は権力の生贄になると。
日本でも年寄の権力者のとんでもない誤りが、沢山の若者達の命を犠牲にした歴史があります。どんなにカルト化しても、内部から変わる事はありませんでした。権力を一掃できる人間は、そのコミュニティに永年属した人間では無理なのでしょう。だから「母」は若いスージーでなくてはいけなかったし、舞踏団に染まっていない他者でなくてはいけなかったんだと思います。
グァダニーノは女性迫害の歴史に対して落とし前をつけてくれたのと同時に現代に生きる私達を鼓舞します。魔女達の血みどろの惨劇は、新たな命を産み出し新たな未来を生み出す出産の象徴とも捉える事ができるのではないでしょうか。女性にしか出産、つまり新たな未来を作ることはできないというメッセージなのか、それとも私の考えすぎなのか。でも、作品から何かを受け取ってしまった私は、恐ろしさと感動に胸が震えています。