「リアリティよりも演出?」ハンターキラー 潜航せよ うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
リアリティよりも演出?
映画の醍醐味のひとつ。
同時に進行する事態を編集でつなぎ、時間すれすれに達成することで爆発的なカタルシスを生み出す。
これがガチャガチャしてうまくつながらないと、何だかよく分からないうちに話が終わってしまう。
この映画、異常にレビューの反応がいい。
ちょっと異常すぎる。ステマにしても評価が高すぎる。
まあ、それを確かめたくて、結局、映画館に来たのだから、まんまと宣伝戦略にハマっているのだが、見終わった後の感想は、「それほどか?」というのが正直なところだった。
確かに、ジャンルの特性を生かし、緊迫感をあおる編集はストーリーを追いかけるごとにたたみかけて効いてくる。隣で鑑賞していたご婦人は、身をすくませて画面にくぎ付けになっていた。特に、世界の命運が自らの決断にゆだねられ、撃てば戦争が始まりかねないという緊張のなか、じっと何かを待つグラス艦長の、一挙手一投足には、すべての観客の意識が集中していただろう。それほど、演出は見事にハマっていたと思う。
その意味で、十分に料金分は楽しめるし、映画館という限定された環境で、より生かされる設定だろう。ジェラルド・バトラー健在を確認できて、うれしかった。自分が何も知らない中学生なら、潜水艦乗りを志していたかも。
しかし、だ。(この先いいことは書かないので、読みたくない人はとばしてください)
この映画、いくつもの偶然が重なってストーリーが展開する。確率を考えるまでもないほどに、「あり得ない」展開過ぎる。
まず、政権内部にクーデターを目論む人間がいること。
それにより、都合の悪い人間を先につぶしておく必要性から、事故に見せかけて沈めようとした潜水艦の艦長が、たまたま生き残ること。
次に、敵軍の艦長(この場合、ジェラルド・バトラー)が、生存者に気づき、救助し、敵の領海で、潜行中に自艦に受け入れること。
また、クーデターで、軟禁状態の大統領を敵の特殊部隊(この場合、ネイビーシールズ)が救出?に向かうという、あり得ない作戦が展開すること。
で、これらの作戦が成功し、自国の大統領と、自軍の艦長を乗せた敵の潜水艦を標的にした撃墜命令に、クルーが背くこと。(これが一番あり得ない)それも、通信を通じて、敵潜水艦から、懐かしい上官の声が語りかけてきたことが理由で。
「アレクセイ、イワノフ、やめるんだ。セルゲイ、ボリス、撃つのをやめるんだ」みたいな通信を、たとえ傍受したとして、それで攻撃中止になる命令なんてあろうはずがない。
アクション映画で、射撃の名人でも当たらないようなシチュエーションで、主人公が一撃で敵を撃ち倒すよりも、もっとあり得ない展開を、もっともらしい演出と、重厚な人間ドラマで押し切って見せてしまう戦争映画。いったいどれだけの偶然が重なったら、この映画のようなことが起きるのか。まあ、それを言い出したら、「エンド・オブ・ホワイトハウス」も、あり得ない映画ではあったが、命令に背く軍人なんて出てこなかった。それに、あの映画では自分のミスで大統領の奥方を死なせてしまう負い目と、大統領の愛息を守り抜く使命があった。今回は、「父親の葬儀は海の中にいた」などと言い切り、冒頭からそんな弱みを見せない。
そんな偶然が積み重なっていくにつれ、どんどん気持ちが映画から離れていった。いったい、これだけの偶然が重なる事態のどこに、グラス艦長の決断の余地があるというのか?
細かなところでは、ロシア側のキャスティングが全体的に甘い。大統領が骨太すぎるし、クーデターの首謀者にカリスマがない。悪役として弱い。ロシア語を使わないどころか、英語でコミュニケーションをとるなど、不思議な人たちであった。
悪くない映画とは思うが、とても★3つ以上つくような評価ではない。