「繊細さと躍動感を両立させた高坂監督の描写力、そして水樹奈々さんの名人芸は劇場でこそ映えます。」若おかみは小学生! yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
繊細さと躍動感を両立させた高坂監督の描写力、そして水樹奈々さんの名人芸は劇場でこそ映えます。
かなり長い原作とテレビアニメシリーズを背景に持つ本作ですが、一つの完結した物語となっています。原作にもアニメにも接していない観客でも物語として楽しむことができる脚本の練り込みは素晴らしいです。
それに加えて、どこまでも美しく繊細な画像、計算された音使いは、劇場の大画面でこそ味わうべきものだと実感しました。例えば食事の場面で、単に美味しそうな食事を美味しそうに描写するだけでなく、お客の口に合わない料理を出してしまった、という状況において、不思議に観ている側も箸を付けずに下げて欲しくなるような気持ちにさせます。恐らく食事だけでなく人物の微妙な表情の変化、間の取り方、箸や椀を持つ所作の微細な変化で、登場人物が感じた食事の違和感を表現したのでしょうが…。
そうかと思えば、冒頭の道路での一場面では、思わず身体が硬直してしまうほどの現実感、迫力がありました。この緩急自在の演出はすごいと思っていたら、高坂監督は『茄子 アンダルシアの夏』で自転車ロードレースを描いていたり、『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』などのジブリ作品でも作画監督を務められていたんですね。『千と千尋』を思い浮かべれば、あの美味しそうな食べ物や疾走感のある描写も納得できます。
アニメ作品と言うことで、必然的に声優の方々についても意識が向いたのですが、主人公・おっこ役の小林星蘭さんの一体化ぶりにも感動しつつ、おっこのライバル的な存在である秋野真月を担当した水樹奈々さんの、幼さと威厳の両方を、声で演じ分ける力量には、達人の風格を感じました。
アニメでは泣かないだろう(失礼)、という浅はかな先入観を易々と覆す後半の展開に、画面がよく見えなくなる状況に。物語上様々な形で伏線が示されていたので意外性という側面はあまり強くないのですが、それでも実際の展開に耐えられるほど強固な涙腺は持ってませんでした。
封切り時の興行収入がそれほど振るわなかったということですが、あまりにも惜しすぎる。この再上映の機会に、一人でも多くの人に鑑賞してもらいたい作品です。