劇場公開日 2021年3月26日

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「コミカル風味の騙し合い劇」騙し絵の牙 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0コミカル風味の騙し合い劇

2022年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

知的

予告編から出版社を舞台にしたもっと辛辣な騙し合い劇だと想像していたが、大泉洋の持ち味を活かしたコミカル風味の完成度の高い非常に面白い騙し合い劇だった。

本作の舞台は老舗の出版社・薫風社。主人公はカルチャー雑誌トリニティ編集長になったばかりの・速水(大泉洋)。社長が急死し、次期社長の座を巡って社内権力闘争が始まり、東松専務(佐藤浩市)は業績回復を目指していく。売り上げの少ないトリニティは廃刊の危機に陥る。速水は部下達とともにトリニティの存続をかけ、売り上げ増大を図るため大胆な策を仕掛けていく・・・。

芸達者な曲者揃いの男性俳優陣と大泉洋との虚々実々の騙し合いは、意外性十分であり、見応えがある。コミカルな味付けで人間臭さがあるので、悪い気分にはならない。

速水の考える策は、従来のトリニティの常識を覆す意外なものであるが、着眼点がしっかりしている。速水は読者視点で売れるものを最優先している。ものづくりでは、老舗になればなるほど、作る側の価値観が重視され、買う側が求めているものが反映し難くなるという背景をしっかり踏まえている。

速水役の大泉洋が硬軟のバランスが絶妙である。人当たりがよく、切羽詰まったところがなく、どこまで真面目なのか真剣なのか読めない。不敵な笑みも得体が知れない。

一方、速水の部下・高野恵役の松岡茉優は、良い小説を発掘することに一心不乱に取り組む姿が印象的で、恵の本に対する強い愛情を表現している。

柔の大泉洋、剛の松岡茉優。二人の対照的な演技が本作の面白さのベースになっている。

終盤、虚々実々の騙し合いの果てに、恵が到達した発想は、グローバル化、ペーパーレス化という時流とは異なる固有の発想である。時流に乗ることに拘らず、オンリーワンの発想が重要であることを示唆している。本作は、単なる騙し合い劇ではなく、変化する時代に対応する企業の在り方も問いかけている。なかなか味わい深い作品である。

みかずき
ゆり。さんのコメント
2022年4月4日

みかずき様、返事が遅くなってしまって申し訳ありません。私の古いレビューまで沢山読んで下さり恐縮です。私の方もみかずきさんの他のレビューを読ませていただいてからご挨拶しようと思っておりました💦
冷静に分析だなんて言っていただくのは嬉しいですが、どうしても自分の好みやその時の精神状態によって甘めになったり厳しめになったりしてしまうので、自分なりの根拠を書くようにしています。
みかずきさんは丁寧に考察されてますね。今後ともよろしくお願いいたします。

ゆり。