劇場公開日 2021年3月26日

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「巧みな構成」騙し絵の牙 aMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0巧みな構成

2021年4月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

タイトルと予告編から、コンゲームの映画として構えて観たが、騙し騙されと言う展開はそれほど深くないし、その点での爽快感は薄い。どちらかと言えば、斜陽産業である出版人のビジネス奮闘記と表現した方が合いそうだ。

文芸誌で出版社としての地位を築いた「薫風社」。看板の文芸誌は落ち目で、雑誌その他の出版で存続している。しかし、社内では文芸誌の地位が1番で、役員も派閥が分かれる。ところが、創業社長の急死で、社内は揺れ始める。
そこへ、カルチャー紙トリニティの編集長として雇われたのが速水(大泉洋)。改革派の東松(佐藤浩市)の差金だ。故人である社長の側近で、文芸誌の地位に固執する伝統派の宮藤(佐野史郎)、伝統の文芸誌を守り続ける編集長江波(木村佳乃)、看板作家の二階堂(國村隼)、創業者の息子伊庭(中村倫也)、東松と密談している外資ファンド(斎藤工)など、曲者が入れ替わり立ち替わり暗躍する。出版に夢を見て働く本屋の娘、高野恵(松岡茉優)が、そんな薫風社で一編集者として、新しい才能を世に出すため日々奮闘する。

社内の権力争いの騙し合いと、作家や編集者の、裏に隠れた思いが交錯し、いくつものエピソードが物語を織り上げていく。個々のエピソードや設定は目新しさは無いが、それらを差し込むタイミングや全体の物語との絡ませ方は、お見事。テレビドラマ1クール分くらいの要素を、違和感なく配置、構成している。あまりに緻密に整然と進行するので、逆に掴みどころが無い感じを受けた。

例えると、とても丁寧に手入れをされている、ビジネスホテルの部屋といった感じか。細部に至るまで、綺麗に拭き掃除がされていて、小物の配置や部屋の空気まできちんと整頓されている。一級の技が施されているのに、どこにでもあるかなり狭いビジネスホテルの一室。田舎の貧相な旅館の窓から、大パノラマが見えた感動や驚きとは、対照的な感覚で、心地よさの質が違う。

どんでん返しとしての伏線・回収はたしかに沢山ある。しかし、大泉洋と松岡茉優の出版にかける情熱の部分が、物語の底流にありラストに繋がる部分だったので、全体を崩しても、その心情面に表現を割いても良かったと思う。この辺は好みの分かれるところだろう。

とはいえ、構成力抜群の佳作であることは間違いない。

AMaclean