「独自性の模索。挑戦と実験の第1歩。」ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
独自性の模索。挑戦と実験の第1歩。
ジブリを離れて「メアリ」を製作した後の次回作が短編オムニバスになるとは予想していなかった。これはポノックにとっての実験や挑戦であったりするのだろうか?それか、ポノックとしての独自性の模索だったりするのかもしれない。そういう意味では、短編で実験や冒険や遊びをしつつ作品を積み重ねていくのは面白い試みだし、有益な気もする。そうするうちに「スタジオポノックと言えばこういうアニメだよね!」みたいなものに辿り着いていけたら尚素敵。
映画は3本の短編からなっていて、米沢監督の「カニーニとカニーノ」はジブリの後継的な世界観の作品で、何しろ水の描写の美しさに思わず魅了されてしまう。
百瀬監督の「サムライエッグ」は食物アレルギーの少年と母親の生活を切り取った作品で、写実的な物語が素朴なタッチで優しく描かれている。
そして山下明彦監督の「透明人間」はちょっとミステリアスな内容がまるでアニメで読むショートショートのよう。線が躍動するかのような作画がまた印象的。
3作それぞれに個性と特徴があって、それぞれ違うことを表現しているのもそれなりに面白く見させてもらった。大雑把な分け方をすれば、大人メルヘンの米沢、日常写実の百瀬、シュールリアリズムの山下、みたいな区分けがこの作品群に対してはできそう。
個人的に「サムライエッグ」はもうそれ一本で十分長編になり得る物語だと感じたし、寧ろ是非とも長編で観たい!と思える作品だった。他の2作は、短編映画であることを前提として挑戦的に作られている感じがあるけれど、「サムライエッグ」は短編では惜しいというか、逆に短編には不向きというか、とても長編向きの内容だったような気がする。
それにこの映画のタイトル「ちいさな英雄」という言葉が最も当てはまるのも、まさしく「サムライエッグ」の少年シュン君だ!と思った。別にどこかへ冒険の旅に出るわけではないし、シュン君自身が特別な才能を持っていて何かを成し遂げるわけでもない。けれど「生きる」という人間の最重要課題のようなものと毎日さりげなく闘っているシュン君は、まるで冒険の旅の勇者みたいだと思ったし、お母さんも含めてまさしく「ちいさな英雄」だなと。
題材が身近だったせいか「サムライエッグ」はすごく好きだったし、「ちいさな英雄」という視点から見ても、一番合点の行く作品だった。