「古い時代劇のような威圧感がある」多十郎殉愛記 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
古い時代劇のような威圧感がある
枯山水は本物の水を使わずに水の存在を表現する。つまり偽物の水、作り物の水というわけだ。しかし、その偽物も究極まで極めれば、美しいもの、良いものと認識される。「多十郎殉愛記」はそんな映画だ。
リアリティーを追及するのではなく、あえて偽物の作り物を高次元に研ぎ澄まそうとした。偽物の本物には美が宿る。映画としての美しさは確かにあったと思う。
そんな美しさの一翼を担っているのが主演の高良健吾だ。まず迫力がある目力が良いよね。それに風貌の汚さと相まった存在感が凄かった。殺陣もかなり頑張っていて良かったね。
作り物の汚なさが美しさを生んでいたんだと思った。
多十郎の相手役おとよを演じた多部未華子も良かったと思う。着物がよく似合っていたし、演技面でも高良健吾の迫力に圧殺されることなく頑張っていた。今までの多部未華子で一番エロスを感じたしね。
ただ、あくまで過去の多部未華子と比べてであって、他の女優や作品に必要な量や質があったかというと、やっぱりちょっと足りないかな。
見た目が幼いので、飲み屋の女将のような役に対して大人っぽさがどうしても不足しちゃうんだよね。
あとはストーリーについてだけど、これははっきりいって不満が残るな。浅いというか薄いというか、多十郎が戦う理由に必然性をあまり感じなくて、ただ戦ってるだけのように思えた。
多十郎の侍としての矜持とか、おとよの為とか、なんかしらが一応あるんだろうけど、もっとドーンとくるインパクトが欲しかったよね。
このへんの物語の軽さはわざとなのか失敗なのか判断しかねる。
最後に、凄く面白いとか感動するとか、そんなことはない作品だったけど、何だかぼんやりと美しい良いものを観たような気にさせられたんだよね。
偽物の本物とか汚なさの美しさとか矛盾することも書いて、混乱するし、よくわからんけれど、「多十郎殉愛記」がアッパレな作り物であった事を考えると妙に納得しちゃうんだよね。