劇場公開日 2019年4月12日

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「中島ちゃんばら純愛記」多十郎殉愛記 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0中島ちゃんばら純愛記

2019年11月8日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

単純

興奮

先日見た『居眠り磐音』は古いタイプの時代劇だったが、本作はさらに。
似通ってる点も幾つか。
主人公は脱藩した浪人。剣の腕は確かで、今は用心棒の身。
想いを寄せるヒロイン。
藩のいざこざに巻き込まれ、守る為に剣を握る…。

見る前は凄腕の浪人役には線が細過ぎるのでは?…と思った高良健吾だが、なかなかやさぐれた男の魅力を発揮している。

正統派のヒーローというより、マカロニ・ウエスタンの主人公のようなアンチヒーロー・タイプ。
それはそれで悪くはないが、幾ら悪人でないとは言え、終盤見廻り組に追い詰められ、人質を取って立て籠るのは如何なものか。
描かれるのは飲んだくれの自堕落な今だけで、過去や背景など描かれず、人物描写もイマイチ。
尺は90分とコンパクトで話もシンプルだが、全体的にお堅い。多十郎と見廻り組が争いに発展するまでも何だか余り釈然としない。
主人公像もエンタメ時代劇としても圧倒的に磐音より魅力に欠ける。

ヒロインの多部ちゃんはとても良かった。
小料理屋の若女将で、時代劇も着物も似合い、役柄含めいい女っぷりを魅せる。
私がこの世界の住人だったら、毎日この小料理屋に通うであろう。

見る前はある理由から密かに期待していたが、ちと…。
『居眠り磐音』の方がずっと面白かった。
が、本作は“ある理由”が話題であり、見物であり、醍醐味であり、魅力。
即ち、

中島貞夫監督による本格ちゃんばら時代劇。

数多くの時代劇ややくざ映画の傑作を送り出してきた中島監督の、実に20年ぶりの長編劇映画。
そんな御大が、映画やTVから時代劇が消え去りつつある今、昔ながらのちゃんばら映画を撮る。
『居眠り磐音』ではちと物足りなかったちゃんばらの魅力と見せ場がたっぷりと。
高良クンも白熱の立ち回り。
何もかも古臭いと言いたければ言えばいい。
御大が今の世に昔ながらのちゃんばら映画を魅せてくれただけで充分なのである。

ラスト、愛する者の為に闘った多十郎の叫び。
それはまるで、消え去りつつある時代劇/ちゃんばらへの、中島監督の声そのもののようであった。

近大